最悪の事業環境で、企業はまだ個人を尊重した経営ができるのか?
くろしお経営のアプローチは、こんなネガティブな出発点から始まります。
ワーク-ライフ・バランス、多様な働き方の尊重等、個人の生き方を尊重する考え方が労働市場に広がっているのは周知のこと。
我々個々人にとって良い方向性に進んでいるのだと思います。
一方で、この方向性が現在の好景気、人不足という状況を前提にしたものではないかという大きな不安もあります。
代表の私が社会人になったのは、就職氷河期真っ只中の2003年。
失われた20年の真っ只中であり、リストラもよく聞くニュースで、今でいうブラック企業の働き方も当たり前だった時代です。
悪い経営者もいたでしょう。
しかし、それだけ経営が厳しく、会社が倒産するよりは「最小限のリストラ」「社員への無理の要請」を苦渋の選択とした善意の経営者も多くいたのだろうと思います。
弊社が前提とするのは、この最悪の事業環境、経営が苦しい状況。
「最悪の状況でこそ、個人が尊重される組織を作ってやろう」という思いが、くろしお経営のアプローチの根底です。
そして、このための解はいたってシンプル;
個人の尊重を、組織の成長と結び付ける
ワーク-ライフ・バランス、多様な働き方等の議論でもよく聞くコピーやスローガンのようで、すいません。
でも、コピーやスローガンのようなあいまいさや抽象さを、そぎ落とします。
あくまで現実的に合理的に。
個人と仕事と組織
個人の尊重を、組織の成長と結び付ける
この解のあいまいさ、抽象さをそぎ落とすため、明らかにすべきいくつかのポイントがあります;
- 個人は仕事に何を求めるのか?
- 組織は個人に何を求めるのか?
哲学のような問になってしまいますが、弊社はコンサルティングの会社。
あくまで現実的に合理的に弊社の考えをまとめます。
-
個人は仕事に何を求めるのか?
当たり前の話ですが、人によって違います。
そして個人の中でも、ライフステージや、場合によってはその日の気分によって違います。
ただ、突き詰めてざっくり分ければ次の3要素のミックスを、誰でも、どんなライフステージでも求めていると思います。
1つ目の要素は生きる意義(の少なくとも一部)。
やりがいや生きがいと言い換えても良いかもしれません。
賛同するビジョンを実現したいという思いで、非営利団体で働く人は多いのではないでしょうか。
学生の中で「ソーシャル・ベンチャー」が人気があるのも、この要素に対するフォーカスが強い表れのような気がします。
2つ目の要素は成長。
単純に自分ができることが増えていくという喜びもあるでしょうし、それによってキャリアパスが増えるという実利的な部分もあるでしょう。
特にキャリアの浅い人などは、この点を仕事選びで重視することが多いのではないでしょうか。
一方で、シニア層に新たなスキルを身に着けて再び活躍してほしい場合、この要素を感じてもらえないと、うまくいかないかもしれません。
3つ目の要素が、安心感。
当然、自身の生活基盤を作るお金というのはあります。
ただ、仲間がいる心強さや、在宅勤務などの「ライフ」の充実つながる環境など、数字に表しにくいものも安心感という意味では重要です。
個人にとっては、この3要素の合計をどれだけ大きくできるか(その比率は時によって違っても)が、その仕事に対する動機付け、満足度を高めることになります。
一方、組織にとっては、この合計を大きくできた分が、個人の尊重の大きさであると弊社は考えます。
そして本当に組織の成長に結び付けることができるのならば、個人の尊重は大きいに越したことはありません。
-
組織は個人に何を求めるのか?
この質問に答える前に、弊社が考える「組織」を簡単に定義します;
組織とは、ビジョンとビジョンを達成するための仕事(事業)の集合体
この定義に向かって、組織は個人に何を求めるかを考えていきたいと思います。
組織が最低限求めるものは、おそらく事業を推進するための遂行能力と、職責へのコミットメント。
ここに、個人にとっての仕事の3つ目の要素の一部である、お金が結びついたとき、仕事への対価という考えが生まれます。
最低限の個人の尊重と組織成長の結びつきです。
しかし既述の通り、個人が仕事に求めるのは、お金だけではありません。
そして組織が本当に個人に求めるものも、職責遂行だけではありません。
最初の「組織」の定義に戻りますが、事業があるのは組織のビジョンを達成するためです。
であるならば、職責を超えてビジョンへ向けたコミットメントを、多くの組織は求めたいはずです。
さらに職責だけにとらわれない、ビジョンを実現するための様々なアイデアも組織は必要とするでしょう。
イノベーションという古くからある言葉が、今改めて頻繁に取り上げられているのは、ビジョンへのアイデアの必要性が高まっている表れだと考えます。
この職責遂行を超えて、アイデアやビジョンに対するコミットメントを引き出した端的な例が、トヨタのカンバン方式ではないかと思います。
マニュアル通り作業をする労働力という、最低限の期待が他の工場では当たり前の時代。
その中で、カンバン方式は、現場に一番近い人達のアイデアによる改善と、高い生産性と品質(というビジョン)へのコミットメントを引き出しています。
そして、アイデアを引き出したのが、自分の意見がすぐに改善に反映されるというやりがい(個人にとっての仕事の要素1)であったと思います。
また、さらに良いアイデアを出したいという意識が、成長の意欲(個人にとっての仕事の要素2)をも高めたのではないでしょうか。
加えて、生産性を上げること自体が、自身の作業環境の改善(個人にとっての仕事の要素3の、お金でない部分)にもつながっていました。
個人にとっての仕事の各要素を最大化し、見事にビジョン実現と事業推進の力へ転化しています。
今日のブログは、個人と仕事と組織の関係を明らかにし、個人の尊重が組織の成長と結び付いた具体的な例を示したところで、いったん締めたいと思います。
しかし、この結び付ける作業が、トヨタだからできたのか、トヨタでさえ偶然の産物だったのか――なかなか難度が高いのです。
次のブログではなぜ難しいかをまとめたいと思います。
<参考>
スヴェンセン, ラース. 働くことの哲学: 紀伊国屋書店, 2016
Adler, Paul. Time-and-Motion Regained: Harvard Business Review, The January-February Issue 1993
© Kuroshio HR Consulting, Ltd. 2019