ネガティブな出発点から始まる、くろしお経営のアプローチ(4/4)

今回のブログでは、組織が目指すべき6つの方向性と、そこに大きく係わる3つの領域についてまとめました。

 

しかし、この6つの方向性と、3つの領域だけではカバーしきれない人事・組織マネジメントの方向性、領域があります。

下図の、領域 D)~G) に当たる部分です。

 

 

 

今日のブログでは、まだカバーしきれていない方向性(裏返せば解決すべき課題)と、その方向性と強く結びつく人事・組織マネジメントの領域 D)~G) について、見ていきたいと思います。

そこがわかっていれば、課題と解決策の「捜索範囲」はだいぶ狭められます。

 

領域 D) 組織デザイン

前回のブログで示した6つの方向性のうち、2つは 「必要なアイデアを迅速に結合できる」「決定を皆に納得してもらえる」です。

 

この2つをしっかり結びつけるためには、「適切な意思決定ができる」という点も重要になります。

ここがしっかりとしていないと、社員から良いアイデアを引き出すことも、意思決定に対して社員に納得してもらうことも難しくなります。

 

「やりたい仕事を皆に渡せる」「必要人材の質・量を迅速に確保できる」の2つも、前回示した目指すべき方向性です。

この2つをしっかり結びつけるためには、「状況に適した体制が組める」必要があります。

 

人材の質・量がしっかり確保できていたとしても、しっかりと考えて人の(性格やスキルの)組み合わせをしないと、なかなか仕事はうまく行きません。

サッカーや野球などのスポーツで、良い選手ばかり集めてもそれに見合うチーム成績が出ないというのは、わかりやすい事例かと思います。

 

また、必要人材が確保できないときに、その欠点を補うという意味でも状況に適した体制が組めるというのが必要になります。

 

  • 適切な意思決定ができる
  • 状況に適した体制が組める

この2つの方向性に深くかかわる領域が、領域 D) 組織デザインです。

 

 

 

 

組織デザインは、会社やNPOなどの書類上では、組織図として表れます。

ただの紙一枚でも表されてしまうものですが、そこには組織としての仕事のやり方が表れるものです。

 

例えば、マーケティング部ひとつを取っても、営業部門の中に置くのか、管理部門の中に経営企画部と近いところに置くのか、はたまたマーケティング部門としてそこに色々な機能を持たせるか等、各組織の事業内容や事業環境によって、様々であるべきです。

 

そうすると、マーケティング部に置かれる人材も、変わってきます。

営業部門の中に置かれたマーケティング部であれば、現場感をプロモーション活動に生かしたいなど、営業経験者が中心になるかもしれません。

 

このように明確な意図を持って、状況に適した体制をしっかりと作っていけることが重要です。

 

組織図には表れにくいですが、組織のタイプも重要です。

野球のように、ピッチャーはピッチャー、キャッチャーはキャッチャーと役割が明確な組織タイプのほうが良いケースもあるでしょう。

 

逆にサッカーのように、一応の役割は決めつつも、状況によりディフェンダーがシュートをしたり、フォワードが守備をしてもらうような組織タイプが良い場合もあります。

 

「サッカー」タイプよりさらに流動的な、部門はスキルによる人材プールで、プロジェクトごとに適切な人を各部門から集めてくるといった組織タイプが適する運用もあるでしょう。

 

適切な意思決定という意味では書類上では、職務権限規程や職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)として表れます。

誰に何を決めてもらうかを明確にしておくということです。

 

ただ、「適切な」という意味では、誰かが決める権限を持つ以外の方法もあります。

関係者全員が納得するまで合議によって決める方法がひとつです。

 

意思決定プロセスのルールだけ決めておくというやり方もあります。

例えば決定には、本人のポストの権限に関わりなく、チームメンバーや関連部署から合意を取ってくる等のルールを作っておくやり方です。

 

「適切さ」をどのように上げていくのか、またそれに続く決定に対する社員の納得度をどう上げるのか、時間という制限も考慮して、その組織に最適な解を見つけていく必要があるでしょう。

 

領域 E) 成長・キャリア支援

「やりたい仕事を皆に渡せる」、「必要人材の質・量を迅速に確保できる」確率を上げていくには、「各人が仕事の幅を広げられる」ということも重要です。

 

組織から見れば、色々なスキルがある人には、お願いできる仕事の種類が増えます。

組織メンバーからすれば、できる仕事の幅が広げれば、仕事の選択肢は増えます。

 

さらに、その選択肢を長期的に考えれば、組織メンバーが「将来へ向け複数のキャリアパスを描ける」ことも重要になります。

この点が満たされれば、「皆の多様なニーズを満たせる」「状況に応じ納得感ある処遇ができる」と合わせて、組織メンバーの安心感とコミットメントを高めることに寄与するはずです。

 

  • 各人が仕事の幅を広げられる
  • 将来へ向け複数のキャリアパスを描ける

この2つの方向性に深くかかわる領域が、領域 E) 成長・キャリア支援です。

 

 

 

 

成長という意味では、研修制度やOJTにおけるメンター制度等、この領域については多くの日系企業が力を入れていることだと思います。

新卒採用の文化が、良い方に働いている効果でもあるのでしょう。

 

一方で、キャリアパスを描き、選択していくという機会については、日系企業は十分に与えていないように思われます。

新卒一括採用後の説明の無い配属決定、目的が明確でない/本人の同意を得ていないローテーションなど、むしろしっかりとキャリアパスを描いている人の方がジレンマに陥ってしまう運用が多い気がします。

 

日系企業を批判しているわけではありません。

上記は終身雇用制という、会社がずっと面倒を見るから、その代わりに与えた仕事の中で自分で自分が活躍できる仕方を考えてくれ、というトレードオフが成り立っていた時にはうまくいっていたと思います。

 

しかし、企業側もリストラをしばしば行い、社員側も転職がキャリアパスの選択肢に入る時代において、説明の無い配置・異動というのはだんだんと時代に合わなくなってきていると思います。

 

終身雇用が当たり前でない海外、例えば中国では、「日系企業はステップアップの為に、教育を受ける場」と考える人がけっこう多いようです。

そのため、日系企業が新卒で採用し、ある程度育成した段階で、優秀な人材ほど、実力主義の欧米系や中国民営系の企業に移ってしまうという悩みをよく聞きました。

中国の社員からすれば、悪意があるわけではなく、合理的な選択でしょう。

 

会社として様々なキャリアパスの選択肢を作っていくか、もしくは社員が外にもキャリアパスを描くことを前提に、育成と配置・登用の関連を高めていくことが重要になってきます。

 

領域 F) 職場環境・風土

組織メンバーの安心感とコミットメントを高めることに寄与するのは、個々人それぞれに提供されるものだけではありません。

 

例えば、オフィスのロケーションや内装といったものや、見えにくいですが、人間関係といったものもあります。

そういう意味で、「物理的環境、人間関係が整っている」状態も目指すべき方向性になるでしょう。

 

特に人間関係は、突き詰めるとその組織に残る、離れることを決める上での最重要事項になってくることも多いように感じます。

 

これらの点と関連が深い領域が、領域 F) 職場環境・風土になります。

 

「人間関係」という言葉ではなく「風土」と、より広い言葉を使います。

それは、「必要なアイデアを迅速に結合できる」 「適切な意思決定ができる」 「決定を皆に納得してもらえる」という3つの方向性の実現するための土台となるものがあると考えるからです。

 

その土台とは、「普遍的な価値観が共有できている」という状態です。

 

価値観をプラグマティックに定義すると、日々の業務上の意思決定から、組織経営の根幹に影響を与えるような意思決定において、判断の基準とすべきものです。

 

その上で、普遍的な価値観としているのは、多様性を犠牲にしてでもその組織メンバー全員が共通に持っているべきものだからです。

 

例えば、法律に抵触しなければGOサインを出すのか、法律に抵触しなくても不利益を被る人々がいるのであればNO GOとするのかなどの基準。

どちらを価値観とするかは各組織の選択になるとは思います。

しかし、このような人としても根本にかかわるような判断基準においては、その組織内で普遍的に共有できている必要があると思います。

 

ホームページや年次報告書にほとんどの企業は価値観を掲載しています。

しかし、単なるスローガンとなっていて、経営陣すらその価値観に基づいて判断をしていないケースも結構あるのではないかと推察します。

 

あらゆる決定の価値基準と考えれば、本来は組織メンバー全員に定着させるために相当の努力が払われるべきです。

 

また、多様性を重視するのであれば、たくさんの価値観を並べるのではなく、しっかりと本当に大切なものだけに絞り込む必要があるでしょう

 

もう一度まとめると、

  • 物理的環境、人間関係が整っている
  • 普遍的な価値観が共有できている

さらに2つの目指すべき方向性があり、そこに深くかかわる領域が、領域 F) 職場環境・風土になります。

 

 

 

領域 G) 企業ブランド力&リーダーシップ

すこし長くなってきましたが、最後の領域です。

くろしお経営の課題特定フレームワークの中央に位置する領域です。

 

 

 

ここでは領域そのものが、目指すべき方向性でもあります;

  • 明確な企業ブランドを構築できている
  • 常に優秀なリーダーを育成・獲得できる

 

目指すべき方向ではあるのですが、直接的に実現していくのが非常に難しいものでもあります。

 

ある意味、これまで示した12の方向性の実現を目指し、6つの領域を改善していった結果として表れるものなのかもしれません。

12の方向性のいくつかが実現できていなければ、企業ブランド力&リーダーシップがうまく行くことはまずないです。

 

ただし、1~数年程度の短期であれば、この領域が突然改善することはあります。

 

例えば、爆発的にヒットする製品が出ることで、急激に企業ブランド力が上がるというのはあります。

 

また、外から連れてきた社長や経営幹部が、(たまたま)上手いことハマったというような時です。

ちなみにプロ社長がちょっと話題になっていますが、プロ社長が多いアメリカでも、外部からの登用がうまくいく確率はそこまで高くないようです。

 

こういった企業ブランド力やリーダーシップは、色々な領域の問題を一気に解決してしまいます。

 

ブランド力があればその組織で働きたい人材は向こうからやってきますし(「必要人材の質・量を迅速に確保できる」)、 「決定を皆に納得してもらえる」のも容易になります。

 

カリスマ社長であれば、 意思決定はまかせることができるでしょうし(「適切な意思決定ができる」)、多少業績が悪く今年のボーナスは悪くても、きっと来年には業績もボーナスも回復してくれる(「納得感ある処遇ができる」)といった感情にもなりやすいでしょう。

 

しかし、影響力が強いために、他の6つの領域の制度や施策、運用上の問題点を覆い隠してしまうケースも少なくありません。

ですから、ブランド力が強い企業ほど、良い経営者や組織のリーダーがいる時ほど、他の6つの領域に適切な施策が施され、運用されていることをしっかり確認していく必要があります。

 

当然、難しいからといって、企業ブランド力やリーダーシップに対して傍観しているのは得策ではありません。

リーダー選定の精度を上げる工夫や、企業ブランドを正しく社内外に伝えていく努力は不可欠です。

 

リーダー選定に関しては、その基準作りに十分に時間をかけ、その基準を固定するというようなアプローチをする企業が多い気がします。

弊社の知見から言えば、一定の基準は大切ですが、それ以上に、現状と少し先の未来を分析する力と、その分析結果から必要となる次のリーダーの要件を導き出す力をつける方が、より重要なのではないかと思います。

 

また、企業ブランド力については、良く見せようとするのではなく、正しく伝えようとすることが大切だと思います。

私の初期のキャリアがマーケティングリサーチャーだったのですが、宣伝広告で売り出す製品を取り繕ってもなかなかうまく行かないものだなと思いました。

むしろその製品の良さをしっかり見つけて、それを正しく伝えることが長続きするブランドを作る秘訣かなと思います。

きっと企業ブランドも同じだと思います。

 

今回のテーマ全体のまとめ

4回に渡って、個人の尊重を、組織の成長と結び付ける意味、そのために目指すべき方向性、課題を見つけ改善していくべき領域について説明してきました。

これによって最悪の事業環境であっても、企業が個人を尊重した経営を続けられる状態に少しでも近づけられれば良いなと思います。

 

 

 

全体のまとめということで、ちょっと偉そうなことを書きます。

すみません。

 

組織とは、共通のビジョンに向かって進んでいく不完全な人間の集まりだと考えます。

完璧な人間などいないし、不完全な人間が集まるのだから、完璧な組織というのもないはずです。

 

でもその不完全さをお互いカバーしあえる組織もあれば、対立や不公平感で不完全さが際立ってしまう組織もあります。

 

経営者も組織メンバー各人も、できれば前者を目指す組織であってほしいと思います。

30点しかない不完全な組織と、70点の不完全な組織では大きな違いですし。

 

そして、そういった組織の各人の意志を、具体的な知恵を提供することで支えていきたいと弊社は考えています。

 

<参考>

Bernstein, Ethan., Bunch, John., Canner, Niko. And Lee, Michael. Beyond the Holacracy Hype: Harvard Business Review, July-August 2018

 

© Kuroshio HR Consulting, Ltd. 2019