デジタルの「進歩」で生まれる新ビジネスと、市場へのインパクトは何か?
前回のブログから、その答えを大きく7つのカテゴリーに分けて検討しています。
今回はその5つ目から。
ここからは、新しいビジネスというよりは、新しいビジネスの「やり方」です。
5) 資材の即時調達・コスト最適化
前回議論した4) ロングテールマーケティングでは、新たな商品開発に向けて、今まで考えられなかった企業との提携が、益々必要になってくるという話をしました。
商品開発だけでなく、製造プロセスにおけるサプライヤーとの提携も重要になります。
それは多品種中量生産における生産コスト低減という文脈で表れます。
マスプロダクションに比すぐらいの生産コストの低減を、多品種中量生産でも実現するのが、デジタルのプラットフォームをベースとした企業間連携です。
まず、既存の完成品メーカーとサプライヤーとの関係において。
完成車メーカーと部品メーカー(例:トヨタとデンソーや豊田紡織)の関係性のような長期で強固な関係性を想定します。
ここでは情報記録系プラットフォームの「物の追跡機能(IoT)」によって、必要な資材について、サプライヤーの在庫も含めて適切に把握できることになるでしょう。
加えて、自動改善系プラットフォームが移送コストや時間から、最適な調達方法を割り出してくれるようになるでしょう。
つまり、グループ内でのサプライヤーの(拠点の)選定や物流会社の選定が、瞬時とは言わなくとも迅速にできるようになります。
ただ、多品種中量生産を考えた場合、既存のサプライヤー群の中では必要なモノを作れない、作るのには時間がかかりすぎるというケースが出てくるかもしれません。
そうすると、既存の完成品メーカーとサプライヤーとの関係に留まらず、ネットワークを広げていく必要性が出てきます。
既存製品や本流の製品には必要なくても、将来的なニーズが出た場合にすぐに対応してくれるような企業ネットワークです。
一方で、そもそもそのようなサプライヤーグループを持たない多くの企業。
それら企業は、ネットワークなど作らず、その都度、必要な部品を提供してくれるサプライヤーを探して契約を結ぶというやり方を取ることが多いかもしれません。
そのサプライヤー探しにおいても、今後デジタルのプラットフォームが、その効率性を高めてくれるかもしれません。
それが、完成品メーカーとサプライヤーをマッチングをする「プラットフォームを市場にするビジネス」の登場です。
サプライヤーから見れば、低コストで新規顧客(完成品メーカー)に繋がることができるようになります。
すでに深センなどではサプライヤーをデータベース化し、世界中の完成品メーカーとのマッチングをしてくれる企業が複数あると聞きます。
余談かつ穿った見方になるかもしれませんが、深センでこのようなマッチングが先進的に始まったのは、昔、香港を中心として盛んだった服の仕立て屋ネットワークの名残かもしれません。
このエリアでは、一つの仕立て屋が大量受注をした場合、血縁ネットワークを使って、手伝ってくれる仕立て屋を一気に探し、どんな量の受注でも期日に合わせたという話を読んだことがあります。
血縁ネットワークとは言え、知り合いの知り合いの知り合いレベルまで仕事を一瞬で投げられるといったカルチャーが、上記の新規企業同士のマッチングが育ちやすい背景だったのかもしれません。
さて、話を本筋に戻すと、深センだけでなく、世界中のサプライヤーのデータがプラットフォームに一元管理されていけば、ここでも「みんな」の信任の重要度が増してきます。
多品種中量生産のため、今まで使ったことのないサプライヤーと提携する機会がますます増えるでしょう。
有名なサプライヤーを除けば、星の数や評価コメントでサプライヤーが選ばれていくはずです。
6)生産ライン・業務の即時改訂/生産性向上
多品種中量生産を一気に生産コストを下げながら進めていくためには、生産ラインの即時改訂と迅速な生産性向上が不可欠。
そこでは、人間の経験やアイデアに加えて、自動改善系プラットフォームが大きな助けとなってくれるでしょう。
先ほど挙げた、トヨタグループのような強固なサプライヤーとの関係を持つ企業。
ここでは、自動改善系プラットフォームを活用して、サプライヤーも含めた生産ライン・業務の即時改訂/生産性向上がよりやりやすくなるでしょう。
逆にマッチングを利用して契約を結んでいくサプライヤーの立場から見た場合。
製品の品質と併せて、このような生産ライン・業務の即時改訂への対応力がこれらサプライヤーの競争力(星の数や評価コメント)を大きく左右することになるでしょう。
このカテゴリーについて、技術的な知識が乏しい私は、現時点でこれ以上書けることがありません。
一方で、自動改善系プラットフォームが今後の伸びしろが一番大きいと思われるため、このカテゴリーが一番大きく変化していきそうな予感があります。
7) プラットフォームを造る/売るビジネス
生産ラインを即時改訂/生産性向上していくようなプラットフォームは、おそらくその企業のコア技術も関わる部分。
また、いまだ強固なメーカーとサプライヤーの構造を作っているグループでは、在庫最適化で優位に立てるプラットフォームを必要とするはずです。
そうすると、それら企業はITコンサルやベンダーの助けを借りて、独自にプラットフォームを造っていくことになるでしょう。
ここにプラットフォームを造るビジネスがあります。
また、ITコンサルやベンダーを雇うほどのお金がない企業に関して。
これら企業では、生産ラインの即時改訂・改訂を行うための定型のプラットフォームを購入し、そこから自分たちでカスタマイズしていくことになるでしょう。
その意味では、(定型の)プラットフォームを売るビジネスも増えていくはずです。
毎回、マッチングプラットフォームを使って契約していく、完成品メーカーとサプライヤーでは、特にこの定型のプラットホームをお互いに使っているかが重要になっていくでしょう。
おそらく、この定型プラットフォームを売る企業の競争も、今後激しくなるでしょう。
まとめと次回予告
前回のブログからここまでなんとか、7つの領域に分けて、デジタル革命によって登場した新しいビジネス、ビジネスのやり方をまとめてみました。
そして、さらに重要なのが市場へのインパクト。
もう一度、その市場へのインパクトをまとめてみます。
まず、大きいのが参加者の増加(個人・小企業の参入)です。
これは、BtoC市場でも起こっていますし( 1) プラットフォームを市場にするビジネス)、BtoB市場でも起こります( 5) 資材の即時調達・コスト最適化、6) 生産ラインの即時改訂/生産性向上)。
併せて、そこでは権威から皆の信任への移行が見られます。
星の数や評価コメントの重要度の増大です。
参加者が増えて選択肢が増えれば、「自分向け商品への慣れ」というのが消費者からは起こります( 4)ロングテールマーケティング)。
その中で、マスプロダクションは減っていき、「セミカスタマイズ商品」と「多品種中量生産」が増えていくでしょう。
そうした中で、商品開発においても、製造プロセスにおいても世界中からベストなパートナー、サプライヤーを探していく必要が出てきます( 4)ロングテールマーケティング、5) 資材の即時調達・コスト最適化、6) 生産ラインの即時改訂/生産性向上)。
このリサーチ力と提携力がない企業は今後苦しくなっていくのではないでしょうか。
最後に、デフォルトプラットフォームへの競争激化です。
デジタル革命による新しい商品・ビジネスの大きいところは、プラットフォームを利用するか、それ自体を売る商売です( 1) プラットフォームを市場にするビジネス、2) 情報を「売り」にするビジネス、3) リースビジネス / アフターケアビジネス、7) プラットフォームを造る/売るビジネス)。
情報記録系の要素が含まれる以上、デフォルトになることが重要です。
AmazonやGoogleのように、一旦勝者が決まったところでは、しばらく大きな動きがないでしょうが、それ以外ではまだまだ戦いが続きそうです。
次回は、ここまでのデジタル革命によるビジネス、ビジネスのやり方、そして市場へのインパクトによって、「組織の在り方」「働き方」「人材マネジメント」はどう変わるか?を考えてみたいと思います。
© Kuroshio HR Consulting, Ltd. 2019