<包囲戦>と<各個撃破>のグローバル化(2/2)
前回は、時代II の本社と海外拠点の組織体制のところまで話をしました。
この組織体制をベースに、時代IIIの <包囲戦>、<各個撃破>それぞれの組織体制を考えていきたいと思います。
時代III<包囲戦>の、本社と海外拠点の組織体制
本社と海外拠点の役割は多少の違いがありますが、本社と海外拠点の関係はトップダウン型で、時代IIの組織体制と同じです。
ただ、時代IIの組織体制との大きな違いは、プラットフォームから常にビッグデータが送り込まれること。
プラットフォームを持つ企業は、さらにM&Aで新たなグローバルなプラットフォームを組み込むことにより、参加者に対する付加価値を高めると同時に、参加者を増やしていきます。
例えば、GoogleはYouTubeなどを買収して、元々のユーザー(参加者)に対してGoogleアカウントを使うメリットを増やしています。
これにより企業側はますます多くのデータを手に入れることになります。
本社は、このようなビッグデータの解析から、必要なプラットフォームの改訂、また新たなプラットフォームの構築や新規事業を考えていきます。
その中には、先ほど挙げたM&Aや、新しい事業を別会社として一度外に出し、成功したら買収しなおすといったプラクティスも含まれます。
一方の海外拠点は、各国におけるプラットフォームと事業推進のメンテナンスや、参加者が健全な状態で利用し続けられるよう保全していくことが大きな仕事となります。
もう一つ、時代IIの組織との違いは、代理店やサプライヤーなどと堅苦しい契約を結ばなくても、うまくやれば勝手に参加者が事業価値を高めてくれること。
良い参加者が集まる仕組みを作れれば、そのプラットフォームの価値はどんどん上がっていきます。
だから、Amazonなどでは、悪質な出店業者の取り締まりが、事業成長に向けての重要な仕事のはずです。
続いて<各個撃破>の組織体制。
時代III<各個撃破>の、本社と海外拠点の組織体制
時代IIの組織体制や、包囲戦の組織体制とは様相がだいぶ違います。
トップダウン型との対比で言えば、ネットワーク型というのが合っているかもしれません。
組織作りの力点でも書いた通り、本社を経由せず、海外拠点同士でガンガンやり取りをやってもらうわけですから。
そうした中で海外拠点は、単なる戦略実行部隊から、自律的な役割の拡大をしていく必要があります。
その中でも、今後特に重要なのが、現地パートナーシップの構築です。
時代IIIになり、新興国にも力のある地場企業が増えていきます。
その中で、現地を良く知る海外拠点が、それら地場企業と提携し、他の海外拠点にも紹介していく。
こうすることで、グローバルでのネットワークがより強固になっていきます。
一方、本社は、コントロール主体の役割から、海外拠点を主役として支援や拠点間コーディネーションを、主とする役割になるべきです。
本社が海外拠点のガバナンスをするために残している役割は、海外投資方針策定・実行、資金調達です。
より貢献度の高い海外拠点に、より大きな投資をしていくというガバナンス。
逆に言えば、貢献ができない海外拠点は投資が減っていくわけですから、しっかり運営すればガバナンス方法として十分に機能するはずです。
これは時代IIとは異なり、自前の海外拠点だけでなく、M&Aで海外拠点が増えていくという状況を踏まえても、現実的な選択だと考えています。
特に日系企業の場合、買ったは良いけれども、結局買収先に好き勝手されて、当初のM&Aの目的が達成されないことが多いと思います。
極端に言えば、「ほったらかしにする」か「トップダウンでコントロールする」の2択しかガバナンスの方法がなかったからです。
<各個撃破>におけるガバナンスの仕方は、第3の選択肢になると思います。
まとめ
ここまでで明らかのように、多くの企業へくろしお経営が推奨するのは、<各個撃破>のグローバル化です。
(もちろん各組織の状況によっては、他の方法を推奨する場合もありますが。)
とはいえ、この体制を立てるのが難しい理由はいくらでも挙げられてしまいそうです;
- 海外拠点に好き勝手やられて、本社の目標が達成できなかったらどうする
- 海外拠点から大切な技術やスキルが勝手に流出してしまったらどうする
- 海外拠点が徒党を組んで、本社に逆らったらどうする
- 自律するには海外拠点の実力が伴わない
などなど。
でも、今からGAFAのような<包囲戦>に向かっていく方が、はるかに難易度が高いと思います。
また、市場と工場が明確に分かれていた時代IIならともかく、これだけ多様な市場を相手に、時代IIのトップダウン型でグローバル経営を続けるほうが、イバラの道のように見えます。
単にビッグデータを自動的に集められないということだけではありません。
時代IIのトップダウン型企業の多くの本社は、海外拠点からタイムリーな情報を十分に集められていません。
おそらく、圧倒的な品質優位の商品、参入障壁が高い事業モデルを持つ企業以外は、乏しい情報量による判断の質によって、負けていくことが増えていくと思います。
次回、「下剋上」のグローバル経営では、「難しい」という点を乗り越えるためにも、特にこの<各個撃破>におけるグローバル経営の要諦をまとめていきたいと思います。
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