現在、政府・行政は、給付金、助成金、融資という形で、資金を投入することで「経済を死なせない」「経済を回す」ということを進めていると思います。
その施策が早い・遅い、量が十分かどうかという議論をするつもりはありません。
今回のブログでは、資金投入に加えて「経済を死なせない」「経済を回す」ためにやるべきことを提言したいと思います。
そのやるべきこととは、需要変化に対する供給調整の加速です。
特に今回は次の2つのアイデアを提案したいと思います;
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需要が極端に伸びた製品(マスクや防護服等)のパーツを作れる企業同士を結び付けるプラットフォームの構築と活用
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需要が極端に減った業種(飲食等)から、需要が高まった業種(物流や医療関係)への迅速な人材投入の仕組み
なお、私は企業の組織・人材マネジメントのコンサルタントです。
そのため、政府・行政、経済の専門家による政策の提案ではなく、ビジネスから見た施策アイデアとしてご理解いただければと思います。
<企業同士を結び付けるプラットフォーム>
マスクや防護服、アルコール消毒液の需要の急激な伸びに対して、おそらく現在政府・行政がやっていることは、完成品メーカーへの増産、製造能力があるメーカーへの参入のお願いだと思います。
このようなメーカーを、マスクでイメージすると下記の通り;
(イメージなので、製造工程の正確性が欠けている点はご了承ください)
信頼できる原料のサプライヤーがおり、原料さえあればほぼ全工程を自社でまかなって、病院や消費者に届けられる状態です。
しかし、このようなメーカーがいくら増産しても、明らかに足りていないのが現状です。
そこで提案なのが、工程の一部を担える企業を同士を結びつけ、地域もしくは国における供給量を増やすという方法です。
マスクの工程がすべて個別の会社で担われているイメージが下記の通り;
日本全体を見渡せば、一部を担える企業は相当数あるのではと思います。
ただ、一部を担えるからといって、全工程に投資するリスクに耐えうる企業は、そうないでしょう。
また長期的に見れば、このような連携は市場原理で出てくるかもしれませんが、それでは遅い。
そのため、連携促進に向けて、政府や行政がこれら企業をつなぐプラットフォームを設置できればよいのではと思います。
プラットフォームと言っても難しいものである必要はありません。
各企業はどの工程ができるかと、どの工程部分を必要としているかを登録すれば、お互いに検索しあえる仕組みです。
例えば、組立メーカーF。
すでに既存事業で、部品メーカーDと運送会社Gとは取引があったとします。
自社で全工程の構築へ投資をするのではなく、プラットフォームで、部品メーカーEと原料輸入会社Cを見つけることで、マスク生産に参入することができます。
これであれば、少ない投資で、既存の技術、知識を活用して一部生産ラインを変える等で対応できる場合も多いと思います。
なお、プラットフォームは次のような機能があればより良いかと思います;
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各医療機関は日々の必要量を提示できる機能
⇒地域・国全体の製品需要を把握
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各医療機関によるプラットフォーム上の決済・クレジットシステム
⇒現場への供給の迅速化
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登録した企業間で、連携を締結した際は報告義務を設け、定期的にお互い、また医療機関からの評価を実施(Amazon等の星による評価イメージ)
⇒与信・信用調査の代わりとする
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連携を締結後、政府・行政からの融資、もしくは融資機関の紹介ができる仕組み
⇒初期投資等の障壁の解消
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バリューチェーン上のボトルネック解析
⇒特に原料を輸入に頼る場合の、政府施策への反映へ
このプラットフォームがあったとして、今回の緊急事態宣言期間には間に合わないとは思います。
ただ、需要に対する供給バランスが早く取れることで、業績下落や社員削減を避けられる企業も増えるはずです。
また、おそらく新型コロナウイルス感染者だけでなく、病院への通院者が増えると思われる次の冬までに十分な医療用品を確保できる確率は上がります。
余談ですが、このような企業間のマッチングは、新規の製品を生み出す上で役に立つと思っていたのですが、むしろ完成するものが明確な既存製品カテゴリーの方が、短期的には役に立ちそうだなと思いました。
今回例に挙げたのはマスクでしたが、医療関連の製品だけでなく、テイクアウト用の容器やEコマースで使われる段ボール等、供給不足になりそうな既存製品ごとにカテゴリーを増やしていくこともできると思います。
<迅速な人材投入の仕組み>
製品の需給バランスの調整に加え、人材の需給バランスの迅速な調整も重要です。
飲食店は休業や客の減少によって、業務量に対する雇用人材が余っていて、それが大きな負担になっているのは明らかのようです。
一方で、スーパーやAmazon等のEコマース、医療機関での人材不足はおそらく日々増しているかと思います。
そこで提案は、派遣法のハードルを下げることによる、余剰人員がいる会社から、人材不足の会社への人材の有期派遣です。
通常であれば、景気が良くない業種の人材は転職活動を通じて景気が良い業界に移ることで、ある程度の時間をかけて、それぞれの業種の需給バランスが取られるはずです。
しかし、そのような猶予が残されていない飲食の会社は相当数あると思います。
休業補償の助成金はだいぶ手厚いようですが、支払われるのが相当先で、支払ってもらうまでの余裕がない企業もおそらく多いでしょう。
一方で、スーパーやEコマース側も、中長期的な不景気も見据える中、今の瞬間風速に合わせて雇用を増やすのもおそらく怖いでしょう。
また、個別に面接をするような時間も中々取れないかもしれませんし、人材獲得コストもかけたくないかもしれません。
そうした中、2社間の合意と、都道府県への届け出があれば、有期派遣ができるという時限措置があれば、業種間の需給調整は迅速に進むのではないかと思います。
なお、基本は派遣法のルールに基づけば良いと思うのですが、次のような点は工夫や注意が必要でしょう;
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社員に対しての報酬は派遣元の金額を保証するものとする(差額の補填の出資をどちらが持つかは2社間で決定する)
⇒社員の生活保障
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万が一派遣元が倒産した場合は、派遣先は合意した有期期間までは派遣社員の勤務と賃金を保証する
⇒派遣された社員が次の仕事を見つけるまでの猶予となる
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派遣においては各社員の合意を取る
⇒派遣法でもそうなっているはずですが、社員ということで命令的な措置をする派遣元へのけん制は必要だと思います
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業種の制限や、2020年1月の時点ですでに設立してある企業に絞る
⇒この時限措置を悪用する新規参入者を防ぐため
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広域地域、全国チェーン間の派遣の場合は、社員の異動距離に制限を持たせる
⇒なるべく電車による移動を避けてもらうため
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各行政が相談窓口を設ける
⇒2社間のトラブル解消や、社員の意に沿わない不当派遣が起こった場合の対応のため
これにより、あくまで本人の希望とそれぞれの企業の体力次第ですが、高齢者がいる社員の希望休業などを行うことで、重症者の拡大リスクも低減できるかもしれません。
医療機関への派遣については、トレーニング期間が短期で済むような業務の切り出しといった作業が必要になってくるケースも多いかと思います。
新型コロナ禍以前から、経営健全化、業務改善を実施し、医師、看護師の業務負担減と、医師、看護師でない従業員の雇用を促進していた病院も多数あると思います。
このような病院がノウハウを広く共有することで、多くの病院で医師、看護師の業務負担減が早く進められればと思います。
<まとめ>
今回のコラムを書くに当たって考えの基礎としたのは次の2点です;
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「経済が回る」というのは「大量の財が交換されること」という解釈から、財の量だけでなく、財の交換頻度を落とさない方法も探るべき
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政府・行政がすべてのことを早くできるわけではなく、政府・行政には政府・行政が早くできることを、民間には民間が早くできることを切り分けてやった方が良い
そこから考えたのが、製品、人材の需給バランスの調整加速であり、それをいかに早くやるかという方法でした。
間違っている点、欠けている視点があるかもしれません。
またこれだけで、日本全体の経済の停滞が止められるとも思っていません。
ただ、ここまで読んでくださった方の、色々なアイデアを考える上での参考になれば幸いです。
もしよろしければ、これまでのコラムもご覧になってください;
会社の緊急事態宣言
在宅勤務の技術と心構え(会社の緊急事態宣言②)
在宅勤務の極意と作法(会社の緊急事態宣言③)
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