会社の緊急事態宣言

今回のブログでは、新型コロナウイルス禍の中、それぞれの企業が

①社員に感染者を出さない(社会全体の感染拡大抑制に寄与)こと

②自社の経済的損失をできる限り抑制する(倒産しない)こと

を、最大限両立させるためのいくつかのアイデアを書いてみたいと思います。

 

アイデアを書く前に2点断っておきます;

 

1点目は、私は組織・人材マネジメントが専門領域なので、その視点から提案しています。

一方で、感染症に関する知識、ITセキュリティに関する知識については専門性がないため、

  • 感染症に関する記述は、政府、行政、ニュースでの情報で理解できているレベルを前提
  • テレワークに関する記述は、複数の企業で実際運用しているものを前提

にしています。

 

もう1点は、このブログで書く施策、何一つやる余裕がない企業もあるだろうし、逆にもっとよい施策で運用している企業もあると思います。

役に立たないアイデアも多々あるかもしれませんが、使えるアイデアは使っていただければ幸いです。

 

 

< 経営者の持つべき視点 >

キーポイント

  • ワクチン・対処法が出来上がる1.5年から2年間は、外出自粛・制限⇔緩和が繰り返される前提で、対応できる施策・仕組みを構築・投資する

  • 「社員に感染者を出さない」⇔「自社の経済的損失をできる限り抑制」の2点間のトレードオフにしない

 

1つめのポイントについて。

 

緊急事態宣言が出るまではなんとか稼げるだけ稼いで、緊急事態宣言⇒外出制限(ロックダウン)の2週間~1カ月をやり過ごそうという経営者は多いかもしれません。

もしくは、緊急事態宣言も外出制限も罰則規定はないことから、その期間も社員には出勤してもらえと考えている経営者すらいるかもしれません。

 

しかし、一旦収まった中国でまた感染者が増えてきていること、高温多湿な国でも感染者が増えていることから、相当長い期間、医療機関のキャパシティを見ながら、外出自粛・制限⇔緩和が繰り返されるように思います。

 

だから、1回の外出制限を乗り切るつもりで今経営していては失敗します。

逆に言えば、迫ってきた外出制限までには間に合わないから何もしないのではなく、1.52年間この状態が続くことを前提に、少しずつでも状況に合わせた施策・仕組みを構築していくことが大切です

 

また、罰則がないから出勤させてしまえという会社があったとしても、感染者が出てしまえば取引先から敬遠される、業務ができないという状態になるわけで、これも長期的にみれば賢明ではありません。

 

2つ目のポイントです。

「社員に感染者を出さない」⇔「自社の経済的損失をできる限り抑制」のトレードオフに、通常はタブーとされている事項を組み込んで、それぞれマイナスにはなるが、どれ一つ危機的なマイナスにならないようにしようという考え方です。

 

イメージで少し説明します。

通常の状態を20点満点とします(下図);

 

 

 

 

新型コロナウイルス禍が-10点の威力があり、現在は各会社それぞれの考えで、その―10点分を「社員に感染者を出さない」と「自社の経済的損失をできる限り抑制」に振り分けている状態が次の通り;

 

 

 

 

提案したいのは次のイメージです;

 

 

 

 

「社員間の公平性」「生産性・効率性の確保」「厳格な承認プロセス」、「社員の生活保障」は、おそらくどれも、通常の状況では守られるべきものとして扱われているはずです。

 

けれども今は、経営者が「会社の緊急事態宣言」を出し、これら事項も「トレードオフ」に組み込みます

その代わり、それぞれの事項の減点分は1~2点に抑えます。

 

つまり、それぞれの事項が耐えうる範囲の小さい毀損で、「感染者を出さない」、「倒産しない(経済的損失の抑制)」が最大限、両立できる状態を作るべきだと考えます。

 

 

<社員に感染者を出さない >

ゴール & アプローチ

冒頭書いたように感染症について素人なので、 とにかく「他者との2メートル以内の接触時間の最小化と、同じモノに触る機会の最小化」をゴールとします。

 

全社員がテレワークをしてもらえれば、おおよそゴールは達成できるわけですが、多くの会社で完璧にそれをすることはできない。

だから、最初から完璧なテレワークの状態を作るのではなく、加点方式で上記のゴールに近づける施策を打っていくというアプローチを想定しています。

 

 

施策アイデア

 

(社員間の公平性とのトレードオフ施策)

  • 出来る部署、職種からテレワークを実施
  • 徒歩・自転車通勤できる社員を中心に出社してもらう
  • 有給病気休暇日数の拡大
  • 評価制度、(勤怠)時間管理の休止

 

 

(生産性・効率性の確保とのトレードオフ施策)

  • オフィスワークにおける輪番出社(社員ごとに曜日をずらして、各社員週1~3日出社等)
  • 製造ラインにおける工程ごとの輪番出社
  • 社員間の距離を十分に空ける生産ラインの再構築
  • テレビ会議システムの導入(一部の人が思っているより高くもないし、難しくもないです)
  • 機密資料のデジタル化とパスワード化及び、Eメール上でのやり取りの許可

 

 

(厳格な承認プロセスとのトレードオフ施策)

  • Eメールの返信での承認(書面上でのサイン・捺印での承認の廃止)
  • 承認者の一部省略(1~3次承認者まで必要だったものを、2次承認者までにする等)
  • 病欠・遅刻・早退の事後承認、医療機関の証明なしでの承認

 

全部の施策の解説は省略しますが、いくつかポイントを;

 

新型コロナウイルス禍がない状態でのテレワークの議論では、

  • テレワークできる部門・職種とできない部門・職種があること
  • さぼっている人を管理できない、行動評価ができないこと

が障害で話が進まなくなることが多いです。

 

あくまで、現在の特別な状況を考慮してのことですが、「出来る部署、職種からテレワークを実施」「評価制度、時間管理の休止」は、その不平等感に目をつぶりましょうということです。

 

オフィスワークにおけるテレワークや輪番出社については結構やっている企業も多いのではと思います。

 

一方で製造現場では中々それができないという声が多いのではと思います。

それでも、ビジネスがスローダウンする中で、常にフル稼働しなくても良い製造の会社・業種も相当数あるのではと思います。

 

そのような状態の製造現場では、工程ごとに出社曜日を分ける、同じ工程でも出社曜日を半分に分けるなどすれば、作業者間の距離の確保がだいぶできるようになるかと思います。

また、仮に感染者が出た場合も一部の工程・輪番の社員だけを休ませることで、工場全体の稼働停止を回避できる可能性があります。

 

当然、それにより出勤時の電車の乗車率も低減されます。

 

なお、約10年前の新型インフルエンザ流行の際に、作業者の出社率が下がった場合の対応マニュアルを作った企業も、少なからずあると思います。

当時のマニュアルを探してみると、より具体的な輪番出社の方法が考えられるかもしれません。

 

さらに資金に余裕があるならば、生産ラインの再構築・一部改良も視野に入れても良いかもしれません。

これも、1~2カ月間のためなら割高ですが、1.5~2年ということでの投資効率から検討いただければと思います。

 

有給病気休暇日数の拡大と、病欠・遅刻・早退の事後承認、医療機関の証明なしでの承認は連動する部分です。

ここは社員の良心を信じ、医療機関への負担、不必要に病院に行くリスクを減らす意味でも、検討していただければと思います。

 

一点付け加えるとすると、テレワークは中間管理職者のチームメンバーへの仕事の配分能力、指示の明確さ、業務品質の確認能力が非常に重要になります。

今、急にそのスキルを上げてもらうのは難しいかもしれませんが、テレワークに入る場合には、中間管理職者にその心構えだけでもしっかりしてもらう必要があります。

 

 

<経済的損失の抑制>

ゴール & アプローチ

こちらについては、景気冷え込み、ビジネス機会が減少することを前提に、次の3点をゴールとします;

  • 2年間、倒産しないためのコスト抑制
  • その間、できる限り雇用を守るための人件費抑制
  • その中で、「社員に感染者を出さない」ための投資資金の捻出

 

こちらも、できるところから加点方式で上記のゴールに近づける施策を打っていくというアプローチを想定しています。

 

施策アイデア

(社員間の公平性とのトレードオフ施策)

  • IT部門等、テレワーク業務が増える部署への人員異動、組織変更

 

 

(生産性・効率性の確保とのトレードオフ施策)

  • 希望休職者の募集(数カ月休職してもらい、その間の給与を60%としてもらう等)

 

 

(社員の生活保障とのトレードオフ施策)

  • テレビ会議システム、テレワークシステムのセキュリティー導入による、通勤手当の減額・支給停止(テレビ会議システム等の資金捻出)
  • 期間限定での減給や後払いの話し合い

 

倒産回避、雇用を守るためとはいえ、一部には明らかに社員にとっては不利益変更になる施策案も入っています。

そのため経営者側の正直な経営状況・予測の社員への共有、社員側からの会社を倒産させないための情報・アイデア提供や協力、いずれの場合も経営者・社員間のコミュニケーション・合意が非常に重要になります

 

このような状況においては、社員や労働組合もリーダーシップを発揮し、経営者と敵対する関係にならず、一緒に会社と自身の損失を最大限回避していくことが大切なのではと思います。

 

 

< 最後 >

正直、私自身は2週間ぐらい前までそこまで深刻に考えていなかったです。

またそのくせ、最近では、政府や行政の対応についてはどうなんだろう?と思うこともあり、誠に勝手です。

 

ただ、今は、長期戦を視野に入れ、

  • 過去やらなかったことを後悔する暇があれば、今やれることをどんどんやっていくこと
  • 政府や行政がやってもらう前に、民間からやれることをどんどんやっていくこと

が重要だと考えています。

 

検査をしてくれる人、治療をしてくれる人、医療機関の人々にできるだけ負担をかけないようにするのが、スローガンでない今一番大切なCSR(企業の社会的責任)だと思います。

 

 

© Kuroshio HR Consulting, Ltd. 2020