レディメイドからカスタムフィットの働き方·ウェルネス
ダイバーシティ経営の必勝メソッドの4つめの提案です;
- 強い共通性を作ることが多様性の近道
- 同一リーダーシップモデルから多様なリーダーシップモデルへ
- ダイバーシティ部長に一番保守的なおじさん社員を任命
- レディメイドからカスタムフィットの働き方·ウェルネス
今回は、就業時間や職場環境を含めた働き方、プライベートも含めたウェルネスの向上施策の“設計と運用の考え方”を提案したいと思います。
画一的な施策が取りにくい令和時代
このテーマの1回目でも書きましたが、昭和の日系企業の特徴の一つは、社員の同質性です;
- 総合職は全員男性
- 社員は20歳前後から55歳まで(定年が早かった)
- 新卒採用、年功的に横並びで昇格(中途採用は少数)
- 終身雇用が当たり前
- 20代後半にはみんな家庭を持ち、配偶者は専業主婦
- 社宅暮らしなので住まいも同じ人が多数
バックグラウンドもライフスタイルも似ているから、悩みやニーズも似通ったものになることが多かった時代。
会社が具体的に社員のプライベートをイメージし、細かいところまで設計した画一的でレディメイド(Ready Made)な施策が、働き方・ウェルネスの向上に効力を発揮しました。
例えば、マジョリティが結婚している、子供がいることを前提とした、扶養手当、家族手当、社宅の用意などはそのようなレディメイドな施策の一つだったと思います。
一方で令和の時代。
女性や外国人の社員比率が増え、新卒採用の人もいれば中途採用の人もいる、定年延長による年齢差も大きくなってきています。
また、プライベートな部分も、昭和の時代に比べ多様化し、年齢との相関性は低下してきています。
例えば、結婚スタイル(未婚・既婚、事実婚、同性婚)、居住スタイル(賃貸、持ち家、社宅に加え、ルームシェアやシェアハウス等の増加)、子供の有無、介護が必要な家族の有無、障害の有無など。
加えて、個人のプライベートに入り込み、個人の情報・課題・ニーズを容易に獲得できた昭和とは異なり、今は各人のプライベートが比較的守られているのは良いことですが、社員の情報・課題・ニーズを個別・具体的に吸い上げるのは難しくなっているかと思います。
令和時代の施策の考え方
このような背景の中、これからの働き方·ウェルネス向上を考える上では、「会社が作った枠の中で、(プライベートな事情を会社に開示することなく)社員が選べる」カスタムフィットの施策設計と運用が重要です。
この考え方を意識的に取り入れたわけではないと思いますが、近年、多くの会社が導入している在宅勤務は、まさにこの考え方にフィットした施策です。
例えば週3回までの在宅勤務をフル活用するAさんとBさん。Aさんは保育園の送り迎えが余裕をもってできるのが理由で、Bさんは単に着替えるのが面倒だからというのが理由。
在宅勤務の理由は異なりますが、会社にその理由を説明する必要はなく、会社が設定した「枠」の中で制度を活用しています。
昭和と令和の働き方·ウェルネス向上施策の設計・運用思想を比較すると下図のようになるかと思います;
先に挙げた、扶養手当、家族手当、社宅の用意などを廃止する会社が増えてきているのもこのような変化の表れだと思います。
一方で、現在導入する会社が増えている施策としては、
- 在宅勤務
- フレックス制
- 研修や福利厚生のカフェテリア方式
- 確定拠出年金(401K)
- フリーアドレス
どれも会社が枠を設定しますが、その中で社員が働き方や利用する施策を選べるものになります。
昭和の思想で設計・運用してしまう令和の施策
こんな概念的な説明を長々する必要はなく、「他社で流行している施策の中で、自社に合うものを入れればいいんじゃないか?」と思うかもしれません。
たしかにそういう側面はありますが、自社に導入する際に、昭和の思想で設計したり運用してしまい、失敗している例はたくさんあります。、
典型的なのは次の3つのパターン;
- 特定の人たちだけをイメージして設計
- フレックス制や在宅勤務をする際には理由を提出
- カフェテリア制や401Kが活用されない
<特定の人たちだけをイメージして設計>
例えば、売り場での顧客対応が必要な職種でのフレックス制。
子供の保育園の送り迎えや家族の介護が必要な社員のニーズに答えるために、フレックス制を導入。
ところが、フレックス制とは言え、営業時間中は売り場に誰かいる必要があり、その「誰か」は現場の判断に任せる設計に。
結局、フレックス制を利用できたのは小さい子供がいる人たちがほとんどで、逆にそうでない社員にしわ寄せがきてしまい、子供がいない社員からは不満、子供がいる社員も肩身の狭い思いをするようになり、トータルのウェルネスは低下してしまった話。
ターゲットとする社員だけでなく、子供のいない社員へのしわ寄せもをあらかじめ想定し、フレックス制の利用の判断を現場任せにしなければ、もっとうまく活用できたと思います。
<フレックス制や在宅勤務をする際には理由を提出>
導入する際、人事や経営はそんな気がなくても、各部署で上司が部下に、制度を利用する際は(カジュアルな形でも)説明を求めるみたいなことは良くあります。
人事が現場の上司たちを令和の思想にしっかりと教育する前に制度を導入することで、フレックス制や在宅勤務が十分に活用されないということも多々あります。
<カフェテリア制や401Kが活用されない>
施策を導入すれば、自動的にサービスが提供されることになるというのも昭和の考え方。
令和の運用では、社員が能動的に活用することが成功のカギになります。
社員に施策を周知し、活用におけるバリア(申請の煩雑さや仕組みの複雑さ等)を極力減らし、継続的に社員に宣伝するという、ある意味マーケティングのような努力が人事や経営には必要になります。
今日のテーマのまとめ
在宅勤務、フレックス制、研修や福利厚生のカフェテリア方式といった施策は既に多くの会社が導入しています。
導入しているだけでは、多様な人材を惹きつけ、高いエンゲージメントを持って働いてもらうための差別化要因にはなりません。
同じ制度であっても、昭和の思想で設計・運用してしまうと思わぬ失敗をしてしまいます。
導入した働き方・ウェルネスの施策を成功させるためには、令和の時代の思想を意識しながら設計・運用していくことが非常に大切になります。
本テーマ全4回のまとめ
改めて、ダイバーシティ経営とは「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営(経済産業省の定義)」のことです。
しかしながら、「障害者雇用比率」や「女性管理職率」など属性に基づく数値目標の達成が先行してしまっており、必ずしも「イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」というところに繋がっていないという課題を強く感じています。
今回の全4回のブログは、
- その課題の解決のヒントになること
- (男性中心の)昭和のマネジメントの全否定ではなく、現在の事業環境、労働市場との違いを客観的に分析すること
- その上で、令和に相応しい人材マネジメントスタイルを提案すること
を目的として書いてみました。
皆様の会社のダイバーシティ経営の進化に、このブログが少しでも役に立てば幸いです。