今回のブログでは、在宅勤務の中で成果を出すための極意と作法を、専門領域である組織・人材マネジメントの観点から書いてみたいと思います。
人との接触を8割減らすことが必要と言われている中、このブログで、少しでも在宅勤務に移行しようとする会社が増えてくれれば幸いです。
<在宅勤務の極意>
You don`t manage people, You manage things.
You lead people.
(管理するのは人ではなく仕事。人はリードする。)
コンピューター科学者であり、アメリカ合衆国海軍准将だったグレース・マレー・ホッパーさんの言葉です。
そして、少し大げさですが、これが在宅勤務の極意だと私は考えます。
在宅勤務では、見えない人(の行動)を管理しようとするのではなく、見える仕事(もしくは成果)をしっかり管理することが重要です。
特にご家族がいる家庭で、普段の仕事環境が作れない人の時間や行動を管理しようとすれば、管理職にとってもチームメンバーにとってもストレスを増やすだけにしかなりません。
だから、勤務時間にちゃんと仕事をしていたかを管理するのではなく、期限までに仕事が進んでいるか、求められる質の仕事になっているかを管理することに主眼を置くべきです。
また、「仕事を管理する」メリットとして、「人」の管理は管理職からメンバーの一方通行ですが、「仕事」の管理は管理職・メンバーの双方向で管理できる点を挙げることができます。
管理職・メンバーの双方向で「仕事」を管理する上で活用していただきたいのが、仕事を管理するための作法(チェックリスト)です。
<在宅勤務の作法(チェックリスト)>
各仕事(作業)の期間を1日~2週間程度と想定した上で、
- 仕事を決める
- 仕事を中間確認する
- 仕事を最終確認する
それぞれのタイミングでの作法は以下の通り;
仕事を決める作法(チェックリスト)
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やるべきことと、その目的の整合性を確認する
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他の仕事と今回の仕事の優先順位付けをする
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期間が修正時間を含めて適切かを確認する
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やるべきこと、目的、期日を確認・合意する
仕事を中間確認する作法(チェックリスト)
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仕事の要諦と品質レベルについて合意する
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修正点を明確にする
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仕事を決めた時との状況の変化の有無を確認する
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仕事完了の期日を修正・確認する
仕事を最終確認する作法(チェックリスト)
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要諦と品質レベルを押さえているかを確認する
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やり切れていない部分・課題を共有する
-
次のステップを合意する
「こんな当たり前のこと、一々確認する必要ないよ」と思う人も多いかもしれません。
特に管理職の立場であれば。
しかし、管理職にとっては当たり前でも、メンバーにとっては当たり前でないことが往々にしてあります。
特に、「目的とやるべきことの整合性」、「仕事の優先順位」、「仕事の要諦と品質レベル」などは、きちんと話し合わないと実際は理解してもらえていないことが多いです。
仕事をこまめにチェックできない在宅勤務の場合は、ここの擦り合わせがきちんとしていないと、仕事の生産性は著しく落ちてしまいます。
だから、各作法がきちんとできたかを一つずつ管理職・メンバー双方で確認してほしいのです。
また、そのために、このリストをチェックリストとして使っていただければと思います。
<人はリードする>
もちろん、双方向の仕事の管理をうまくやっていくには、管理職・メンバー間で、きちんと「仕事」に対して意見を言い合える状態を作る必要があります。
そこで重要なのが、冒頭の言葉の「You lead People(人はリードする)」の部分。
リーダーシップの話は広大で抽象的になりがちです。
そのため、ここではチェックリストを使って「仕事」を管理するという部分でのリーダーシップに焦点ってポイントを挙げます;
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管理職、メンバー、両方のリーダーシップが必要
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管理職のリーダーシップは、「メンバーの意見を聞く」「責任を持って決める」「メンバーに説明し、腹落ちさせる」「約束を守る」
-
メンバーのリーダーシップは、「意見を言う」「腹落ちするまで質問をする」「約束を守る」
これを、各作法ごとに守ってみてください。
当たり前のことに見えるので、ひとつひとつのコミュニケーションが面倒に感じるかもしれません。
しかし在宅勤務の場合、ここをしっかりやっておく必要があります。
でないと、後で電話やメールで1日に何度も確認しなおしたり、出てきた仕事の結果が想定していたものと違ったり、結果としてやり直しになったりする確率が大きくなります。
<テレビ会議/電話会議の作法>
さて、もう一つ、テレビ会議/電話会議での作法のリストを;
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何を決めるかを明確にする
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参加者全員に決めるために必要な意見を言ってもらう
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全員が決定事項を理解したかを確認する
会議に臨む際に、話し合うテーマを決めている会議は多いと思います。
ただテレビ会議/電話会議は、さらに踏み込んで「何かを決定する」会議とするべきです。
情報共有するためだけの会議であれば、在宅勤務ではメールで知らせた方がより正確だからです。
また、発言する必要がないテレビ会議/電話会議では、ネットサーフィンなどをしてしまっている人も少なからずいるのではないでしょうか?
だから、参加者全員に「意見」を言ってもらうという意味は、逆に、意見を言ってもらう必要がない人は、無意味に参加させる必要はないということでもあります。
これは、在宅勤務において不必要な拘束時間を減らし、社員のストレスを軽減させるといったメリットもあります。
<まとめ>
在宅勤務で成果が落ちたり、イライラするのは、テレワークの設備が整っていないことだけに起因するわけではありません。
在宅勤務での仕事の進め方を、会社の経験知として持っていない部分も大きいかと思います。
逆に言えば、在宅勤務での仕事の進め方さえ身に付ければ、テレワーク設備の不備を十分補えます。
昭和の時代だって、貿易関係の仕事などはずっと遠隔地同士で仕事をしていたわけですから。
また、前回のブログでも書きましたが、「在宅勤務だから成果が落ちる」のと、「在宅勤務に慣れていないから成果が落ちる」は違います。
スキルアップの期間が必要だと認識して、なるべくイライラせずに、それぞれの会社の最適な在宅勤務のやり方を見つけていただければと思います。
もしよろしければ、前回、前々回のコラムもご覧になってください;
会社の緊急事態宣言
在宅勤務の技術と心構え(会社の緊急事態宣言②)
<参考文献>
Gawande, Atul (2011) The Checklist Manifesto How to get things right. London; PROFILE BOOKS LTD.
© Kuroshio HR Consulting, Ltd. 2020