事業がぐんぐん伸びる、グローバル化の捉え方(第7回)

下剋上のグローバル経営(3/4)

 

<各個撃破>の組織体制、「下剋上」の運営は、一見、グループとしての連携を崩すように見えます。

 

でも、崩そうとしているのは、これからの時代にそぐわないコミュニケ―ションスタイル;

  • 本社を経由した時間のかかる連携
  • 本社からのガチガチの目標で縛られたトップダウン型の運営

 

グループとしての連携はむしろ強化していく必要があります。

 

 

時代IIのトップダウン型組織体制でのグループ連携

まずは、時代IIのトップダウン型の組織体制での、グループ連携を少し細かく見ていきます。

 

前出のこの組織体制;

 

 

 

組織体制の内部を少し細かく見ると次の通り;

 

 

 

本社の各部門から来る指示や要望に対して、拠点長が一手に引き受ける体制です。

 

ただ、これでは拠点長が大変なのは一目瞭然。

現地企業や現地における他の外資系との競争や、政府対応等をしながら、本社のあらゆる意向を引き受けるのは負担が大きすぎます。

 

そこで出てきたのが、マトリックス組織の考え方。

*下記の図では、本社の部門は製造、販売等の機能で分かれていますが、事業部制を取っている多国籍企業の方が多いかもしれません。

 

 

 

本社の各部門トップは、拠点長ではなく、拠点の部門トップ(拠点における第2階層)に指示、要望を出す形です。

 

拠点長は現地での競合や政府への対策・対応に集中し、こちらも拠点内の各部門トップに指示、要望を出します。

 

拠点長の負担が軽減される上、本社部門トップ、現地トップ両方から指示、要望が来ることで、グローバル全体の視点、現地の視点両方から、抜け・漏れがなくなります。

 

一見、非常に良さそうにみえるグループ連携のやり方。

実際に現在、多くの多国籍企業が取っている形です。

 

しかし運用上難しいのが、第2階層が本社トップと拠点トップ両方からくる異なる指示や要望を調整し、正しい方針を選び取っていく必要がある点。

 

それが本当にできる人材は、次の2点を両方備えている必要があります;

  • 現地拠点において他部門のこともよく理解している
  • 担当機能・事業において本社・他拠点のこともよく理解している

 

加えて、現実的には自拠点長と担当機能・事業の本社トップとのパワーバランスを理解し、細かい調整をするというような泥臭い部分も持ち合わせている必要もあります。

 

そんなスーパーマン/ウーマンを、全拠点の第2階層全ポジションに配置できるような企業は、おそらくほとんどないでしょう。

 

結果的に、泥臭い部分のほうが優先され、海外拠点の第2階層までは本社内のパワーバランスを熟知した駐在員で占められている企業が少なくありません。

 

本社からの駐在員を介した連携は、たしかにグローバルでのコミュニケーションをスムーズに進める上では利点があります。

 

しかし、各海外拠点が、その市場に最適な商品とマーケットコミュニケーションを考えていくという<各個撃破>の組織体制では、幹部ポジションには、現地に精通した人材を据えることが不可欠。

駐在員だったとしても、最低でも3年以上現地に住み、現地の言葉で情報収集や取引先との交渉ができるレベルが求められます。

 

 

<各個撃破>の組織体制でのグループ連携

だから、マトリックス組織とは異なるグループ連携が必要になります。

 

おさらいになりますが<各個撃破>の組織体制はつぎのような体制;

 

 

 

トップダウン型の組織体制とは異なり、海外拠点同士が有機的に繋がり、海外拠点の自律的な頑張りにエンジンを持たせたネットワーク型ともいえる組織体制です。

 

この<各個撃破>の組織体制を活かすグループ連携の肝は、次の2点;

  • 二人三脚でスーパーマン/ウーマンになる
  • 本社機能を海外拠点に置く

 

まず、二人三脚でスーパーマン/ウーマンになる点について。

 

1人の人に、

  • 現地拠点において他部門のこともよく理解している
  • 担当機能・事業において本社・他拠点のこともよく理解している

の両方を求めるのではなく、海外拠点各部門で次のような人材を組み合わせて配置、役割分担するほうが現実的です(下図のタイというのはあくまで例);

 

 

 

部門トップが機能的T型人材ならば、副トップが地理的T型人材というような形です。

もちろん、その時々の人材の適性に応じて逆でも良いと思います。

 

ただこれだと、今まで副部長を置いていない拠点は余分な人件費を抱えることになります。

そのため、地理的T型人材には、現地でのマネジメントに加え本社機能の一部を担ってもらうことになります。

 

ここが、「本社機能を海外拠点に置く」という意味。

 

 

海外拠点の部門トップ(もしくは副トップ)同士が、バーチャルで繋って本社機能を担ってもらいます;

 

 

 

各拠点の当該機能・事業のトップ(地理的T型人材)が、定期的にバーチャル会議を持ち、課題解決を通じて、様々な視点や情報、各拠点のプラクティスを紹介しあうことで、知識とアイデアの横展開を図ります。

 

密な形での知識とアイデアの共有というのは、時代IIのトップダウン型の組織体制ではなかなか実現できなかったことで、本社機能自体は拡大すると言っても良いでしょう。

 

また、日本本社にいるだけでは海外拠点の現場情報が入りにくいですが、この体制であれば、常に各国の最新の状況に基づいて、判断が下せるようになります。

 

もちろん、複数の拠点を持つ企業では、毎回合議で運用しては意思決定がなかなか進みません。

だから、最終意思決定者として各機能・事業のグローバルトップのポジションは必要になります。

 

おそらく、この本社機能のメンバーから、その時の事業状況に合致した人材をトップに据えるのが良いでしょう。

 

また、機能・事業のトップが、お互いを知っていくことで、2拠点間に限定された課題解決・調整や事業連携も、日本本社を介さずとも、より円滑に進められるようになるでしょう。

 

海外拠点間の人材レベルがバラバラということはあるでしょう。

その場合は、「常任」と「非常任」とメンバーを分け、実力が高い「常任」には密接に連携し、緊急性・難度の高い課題に対応してもらう。

一方で、「非常任」のメンバーにも、定例の全体会議に参加してもらう、テーマ別のワーキンググループには参加してもらう等、各拠点が本社目線の獲得と他拠点とネットワークを作る機会は用意すべきです。

 

なお、このような組織構造においては、日本本社全体を「本社」と見るよりも、「日本本社」と「日本支社」というふうに切り分ける必要が出てきます。

 

そして、「日本支社」の部分は他の海外拠点と同様に、この仕組みに組み込んでいくことも重要になります。

 

一方、「日本本社」の部分の役割は、海外拠点のガバナンスをするための、海外投資方針策定・実行、資金調達に集中することになります。

この意味で、物理的な「本社」は縮小します。

 

各海外拠点に視点を戻せば、バーチャル会議で進んでいる話を「地理的T型人材」が、「機能的T型人材」と共有、相談していく。

こうすることでグローバルでの全体最適の視点も踏まえて、現地での各部門の意思決定が進むようになるはずです。

 

今日のブログはここまで。

次回のブログでは、この組織体制の下で、海外拠点人材により活躍してもらうための、人材づくりや人材の惹きつけに焦点を当てたいと思います。

事業がぐんぐん伸びる、グローバル化の捉え方(第8回)

 

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