事業がぐんぐん伸びる、グローバル化の捉え方(第8回)

下剋上のグローバル経営(4/4)

 

今回が、このテーマでの一応の最終回。

 

今まで、<各個撃破>の組織体制、「下剋上」のマネジメント、「本社機能を海外拠点に置く」グループ連携について書きました。

 

それらを成り立たせるための人材づくりと人材の惹きつけについて、今回は考えたいと思います。

 

 

<各個撃破>の組織体制における人材づくり

前回、海外拠点の部門トップ・副トップのいずれかが本社機能の一部も担っていくということを書きました。

 

この中で、部門のメンバーには所属海外拠点の業務はもちろんのこと、本社機能としての業務にも携わってもらいます。

 

もちろん、適性に応じてその比重は変わると思いますが、両方の業務経験することで、全体感と現場感、両方のバランスある視点を養ってもらうことが目的です。

 

また、本社機能の業務に携わる中で、必要であれば他拠点のメンバーとのやり取りも求めます。

そうすることで、特に将来的に地理的T型人材への進むメンバーには、他の海外拠点とのネットワークも広げていってもらいます。

 

さて、さきほど挙げた部門トップ・副トップのポジションは、前回のブログで書いた通り、機能的T型人材と地理的T型人材がタッグを組んで担ってもらいます。

 

 

 

ですから、部門メンバーにも、所属海外拠点の業務と本社機能の業務両方をこなしながら、地理的T型人材か機能的T型人材かのいずれかをまずは目指してもらうことになります。

 

つまり、<各個撃破>の組織体制においては、2通りの成長曲線をイメージします;

 

 

 

①~⑧はこの成長曲線のマイルストーン。

それぞれの段階での身に付けている知識や経験、担ってほしいポジションを解説します。

 

まず④と⑤。

これは既述の機能的T型人材(④)と地理的T型人材(⑤)です。

 

ポジションで言えば、海外拠点の各部門トップ(もしくは副トップ)を担ってほしい人材です。

 

①は、担当市場&担当機能の専門性をまずは身に付ける段階。

加えて、色々な仕事を任されながら、自身の適性を考える段階でもあります。

 

②と③は担当市場&機能の専門性は身に付け、ある程度目指すT型が見えてきた段階。

②であれば拠点内で他機能の知識・経験を、③であれば他国市場の知識・経験を身に付ける段階です。

 

ここで一点注意を。

全体像だと②③はまだ第2ステップですが、海外拠点のポジションで言えば、シニアスタッフから中間管理職のポジション。

 

経験年数やライフステージから、守りに入りやすい段階かもしれませんが、むしろここからアクセルを踏み込んで成長してもらう必要があります。

 

ここでは明確なキャリアパス(登用すべきポジションのステップ)というのは必ずしも必要ありません。

むしろ、経験がない領域や市場の様々なポジション、新規プロジェクトのリーダー等にチャレンジしてもらった方が、④⑤の本当のT型人材へステップアップする上では有益だと思います。

 

⑥⑦は、T型人材になった先に目指してもらいたい姿。

 

⑦のような人材に担ってもらいたいポジションが、各機能もしくは事業のグローバルトップ。

前回のブログで書いたように⑤の地理的T型人材による本社機能の会議体のメンバーから選ばれていくことが多くなると思います。

 

一方の⑥のような人材には、各海外拠点の拠点長を担ってもらうべきでしょう。

拠点全体を見るためには、その拠点が持つあらゆる機能についてよくわかっている必要があります。

加えて、他の海外拠点との様々な連携・協働を考え、実行してもらうには、他の市場の知識と経験も一定程度持ち合わせている必要があります。

 

最後の⑧は、機能的T型人材であり、地理的T型人材でもあるマルチT型人材。

スーパーマン/ウーマンです。

 

こういった人材であれば、グローバルCEOを担うことも可能でしょう。

もちろん、その時々の会社の状況に応じた更なる適性も見る必要はありますが。

 

時代IIのトップダウン型の多国籍企業では、ピラミッド型の1つの成長曲線の中で、一定階層以上を「グローバル人材」として定義した上で、様々な人材づくり、後継者づくりの仕組みを整えている企業が多いと思います。

そして、1つの成長曲線で考えると、全員に英語学習を課したり、育成目的でのグローバルでの大規模なローテーションが施策になりがちです。

 

しかし、成長曲線に応じて、きちんと身に付けてもらうべき経験・スキルを切り分けて考えれば、必要な部分に強みを持った人材をより多く生み出せるのではないかと思います。

今回示した2つの成長曲線については、時代IIのトップダウン型の組織体制の企業でも活用できる考え方なのではと思っています。

 

 

<各個撃破>の組織体制における人材の惹きつけ

では、そもそも<各個撃破>の組織体制を支えてくれるような人材に来てもらい、長く働いてもらうにはどうしたらいいでしょうか?

 

実は、

  • <各個撃破>の組織体制
  • 「下剋上」のマネジメント
  • 「本社機能を海外拠点に置く」グループ連携

 

そのものが、人材を惹きつける魅力となり、また、自拠点外の人材へのネットワーク拡大に寄与するのではと思っています;

 

 

 

人材を惹きつける魅力となる点は、これまでのブログで記載してきた通りのもの。

 

海外拠点の裁量が大きくない時代IIのトップダウン型の企業に対してはもちろん、<包囲戦>の組織体制を持つGAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)のような企業の魅力にも見劣りしない。

と、少なくとも私は思います。

 

自組織外の人材へのネットワーク拡大でも、トップダウン型の企業に比べて優位です。

トップダウン型組織では、本社の枠組みや指示に基づく提携先が優先され、ネットワークを広げるチャンスが限定されてしまいます。

 

それに比べ、<各個撃破>の組織体制、「下剋上」のマネジメントでは、新規事業の開発等での外部へのネットワークづくり、パートナー企業探しも海外拠点に求められる。

良き人材に巡り合える機会ははるかに多いかと思います。

 

また、部門トップ達が本社機能を果たし、メンバーも他拠点と協働する中で、 お互いの人材レベルや、人材が足りていないポジションの話等も共有されていくでしょう。

 

その中で、一方が適任者がいない空きポジション、一方が優秀だがうまく活用できていない人材がいる場合、グローバルグループ全体で人材の適材適所の配置が促進されます。

 

言い換えれば、人事部門からの異動の要請やローテーションプログラムではなく、事業上の必要性に基づくコミュニケーションの促進から、グローバル人事が進むわけです。

人事や経営層にはむしろ、各拠点が事業・業務を進めていく中で、上記のような視点、コミュニケーションが浸透がするように働きかけていく、そのための仕掛けを作ることが重要になると思います。

 

 

テーマ全体のまとめ

全8回、ブログとしては非常に長いテーマになりましたが、ここまで読んでいただきありがとうございます。

 

今回書いてきた、グローバルの組織体制や経営方法は、ごく部分的に施策が実施されている企業はあっても、体系的に説明されたものは他ではないと思っています。

 

そのため、少し回りくどくなりましたが、時代考察、グローバル化の定義、時代による切り分けというところ(第1回、2回)から書き始めました。

そこでのキーポイントは、市場が先進国から新興国に移るのではなく、市場がたくさんある時代だということ。

 

そのような世の中のグローバル化の状況を踏まえた上で、<包囲戦>と<各個撃破>という2つの組織体制を示しました(第3回、4回)。

ここでは、多くの多国籍企業が取るべきは、GAFAのような<包囲戦>の組織体制ではなく、<各個撃破>の組織体制であることを示そうと思いました。

 

その上で、<各個撃破>の組織体制においては、海外拠点にはより自律的に動いてもらうべきであるという点を説明しました。

それが「下剋上」のグローバル経営です(第5回、6回)。

 

もちろん自律的に動いてもらう中で、また「下剋上」を目指してもらう中で、グループ連携がないがしろになってもいけません。

そのグループ連携の肝が、海外拠点に本社機能を置くということで、前回と今回のブログで論じた部分です(第7回、8回)。

 

大きな考えを示すため、抽象度や理想論が過ぎたように見える部分があるかもしれません。

例えば、現行の組織体制から具体的にどう移行するのだとか、財務上の管理・ガバナンスはこのような体制で十分なのか、技術流出の恐れや、マザー工場もいらないのか、などについては書いていません。

 

筆者自身は、組織・人事コンサルタントとして10年以上、海外の日系企業現地子会社支援、本社からの海外拠点マネジメント支援の両方に携わってきました。

だから、現実的には、上記のような問題も解決した上で、2~3年で今回ブログで示したグローバル経営に完全に移行できるとは私自身も思っていません。

 

しかし、だからこその現実感として、10年後にも現在の組織体制のままでは、多国籍企業の多くは成長を継続できないとも思っています。

 

僭越ながら、5~10年の長期スパンのストーリーとして今回のブログ捉えていただき、ヒントになりそうなところから活用いただければ幸いです。

事業がぐんぐん伸びる、グローバル化の捉え方(余論その1)

 

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