事業がぐんぐん伸びる、グローバル化の捉え方(余論その1)

新型コロナウイルス禍におけるグローバル経営

 

「事業がぐんぐん伸びる、グローバル化の捉え方」

このテーマで書き始めたのは1月頭。

新型コロナウイルス禍がまだ中国だけの出来事だった頃。

 

海外出張もままならない現況では、滑稽に見えるテーマかもしれません。

 

しかし、多国籍企業の多くは、今後も海外での事業がなくては立ち行かなくなります。

直接的ではなくとも本国のGDP、景気への影響も少なくありません。

 

・たくさんの優良市場があることを前提としたグローバル化(時代IIIのグローバル化)

・トップダウン型からネットワーク型の組織体制への転換(<各個撃破>の組織体制)

・自律的な海外拠点の運用(「下剋上」のグローバル経営)

・バーチャルな会議体での本社機能(本社機能を海外各拠点に置くグループ連携)

・海外拠点人材の最大活用

 

このテーマで書いてきたことは、期せずして、新型コロナウイルス禍での最適なグローバル経営方法の一つだと考えています。

 

その理由と、今すぐ多国籍企業が取り入れられるインスタント版施策について、今回は書きたいと思います。

 

 

経済を回すためには海外拠点が重要

新規感染者数が減少してきた今、「経済を回す」という言葉が盛んに出てきています。

 

「経済を回す」というのはどういうことか?

私は経済の専門家ではないので、大学で習うようなベーシックな理解で恐縮ですが、GDPのマイナス成長を止める、GDPの成長率を上げていくということに他なりません。

 

もちろんGDPが安定的に成長すれば、失業率も抑えられるし、収入も上がっていきます。

 

それを踏まえて、日本の産業別のGDP比と就業者比を見たいと思います;

 

 

 

感染拡大のリスクと直接トレードオフになる宿泊・飲食サービス業に、焦点が当たるのも相応の支援が必要なのも当然です。

 

しかし、「経済を回す」という観点からみれば、製造業のGDP比率、就業者比率のほうが、宿泊・飲食サービス業よりもはるかに高い(GDP→21.1%:2.4%、就業者数→15.9%:6.2%)。

製造業を何とかしなければ恐ろしいGDPのマイナス成長、失業率の増加につながります。

 

この製造業のGDP額に関連性が高いと考えられるのが輸出額。

GDPに占める輸出額の割合は2018年ベースで18.4%。

ざっくり100兆円弱。

 

この中には、直接海外の顧客・取引先に製品を納入することもあるでしょうが、

  • 自社海外拠点の販売会社に納入
  • 自社海外工場にコア部品を納入

という部分が大きな割合を占めるはずです。

 

また、海外の顧客・取引先への直接の納入であっても、そもそも海外拠点の営業活動によるものが大きい。

 

だからこそ冒頭で書いたように、海外拠点の事業成長は、直接的ではないにせよ、本国のGDP、景気への影響が大きいのです。

 

また、総輸出額のうちサービス業は20兆円ぐらいを占め、製造業ほどのインパクトはないにしても、サービス業の海外拠点の活動も維持していく必要があるでしょう。

 

 

脱グローバル化ではなく、時代IIIのグローバル化が加速する

このように考えれば、多国籍企業には海外活動も踏ん張ってもらう必要があります。

また、日系だけでなく世界中の多国籍企業がそのように考えれば、新型コロナウイルス禍でグローバル化が後退することにはなりません。

 

では、新型コロナウイルス禍が与える本当の影響とはなにか?

私が考えるに、時代IIのグローバル化の終焉と、時代IIIのグローバル化の加速です(第1~2回参照)。

 

時代IIのグローバル化、つまり「巨大市場と生産地に世界を分け、巨大市場で利益を上げる企業システムの構築」は、たしかに今後後退するでしょう。

 

一方で、2種類の時代IIIのグローバル化のうち、<包囲戦>のグローバル化、つまり「世界全体で使えるプラットフォームで、あらゆる市場と事業活動体から収益を上げるシステムの構築」はすでに加速しています。

 

<包囲戦>のグローバル化を実践しているのが、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)。

外出自粛や外出制限の中で、AmazonGoogle傘下のYoutubeGAFAではないもののZoomといった企業も使用量を圧倒的に伸ばしています。

 

新型コロナウイルス禍での事業の制約条件を元に、時代IIの組織体制と、<包囲戦>の組織体制を比べると、その理由が見えてくると思います(第3~4回参照);

 

 

 

時代IIのトップダウン型組織体制については少し極端な書き方をしている部分があるかもしれませんが、<包囲戦>の組織体制が、明らかに現状に対して有利なのがよくわかると思います。

 

 

新型コロナウイルス禍での<各個撃破>のグローバル化

ただし、<包囲戦>の組織体制は、グローバルなプラットフォームがあること、ビッグデータが自然に集まる仕組みであることが前提条件になります。

 

残念ながら多くの企業は<包囲戦>のグローバル化は展開できないことを論じてきました。

 

そして、その代わりに<各個撃破>のグローバル化、つまり「各国市場ごとのニーズに合致する商品を作り、多くの市場で同時に勝てるシステムの構築」を全8回の中で推奨してきました。

 

では、<各個撃破>のグローバル化、組織体制が、現在の新型コロナウイルス禍での状況に適合性があるのか?

 

さきほどと同じ表で見ていきたいと思います(第2~8回を参照);

 

 

 

詳しくは全8回を読んでいただきたいのですが、少なくとも時代IIのトップダウン型組織体制に比べて、現状には適性が高い組織体制、海外拠点のマネジメント方法だというのがわかると思います。

 

 

インスタント版<各個撃破>の組織体制

とはいえ、<各個撃破>の組織体制については、私自身も5~10年程度をかけて完成していくものと認識しています。

 

ですから、エッセンスの一部を取り入れたインスタント版施策を5つまとめてみました(全8回のほうがベースになっているので、できればそちらもお読みください);

 

 

 

リスクヘッジ型の製造拠点ポートフォリオの構築

ここはすでに手を付けている多国籍企業も多いかと思いますので手短に。

恐らく新型コロナウイルス禍で、1カ国に生産を集中している、国際分業で1つの部品が手に入らずに生産ができないという事態に陥った企業も多かったのではないでしょうか?

 

今からいきなり新たな生産拠点を立ち上げるのは難しいにしても、

  • 生産量を各製造拠点に分散させる
  • 生産量が増えた拠点では、現地で新たなサプライヤー(候補)を探し、
    現地で生産が完結できるようにする
  • そのサプライヤー情報を拠点間で共有し、1つのサプライヤーが止まっても稼働できる状態を保つ

といったことは進められるかと思います。

 

 

書類上の権限と、実際の権限のギャップの見直し

権限規程書上では相当高い予算枠等が、海外拠点管理職には与えられているはずです。

 

しかし、その金額を一気に現地の社員が使おうとすれば、(駐在員の)上司からのチェックが相当はいるはずです。

だから実際は、現地社員が自分だけで決済できる金額は、おそらく規程の1割からせいぜい3割ぐらいなのではと思います。

 

何をすべきかというと、この実際に一人で決済できている額プラスアルファを改めて規程し、その額までは一人で決済して良いとするのです。

予算の1割は自分で決められていた社員は2割まで、3割の社員は5割までという具合です。

 

当然、自分で決められる予算が大きくなるということは、より大きな仕事が自律的にできるようになるということです。

 

駐在員を派遣できないからと、いきなり元の権限規程通りの権限、予算枠を与えるのは不安ですが、今まで通りだと業務が進まないということを踏まえた上での折衷案です。

 

もちろん、このような形で徐々に根回し力、交渉力等も高めてもらいながら、段階的に枠を増やしていき、数年後、最終的には権限規定通りの予算を自分で決められるようになってもらうことを目指します。

 

 

本社海外担当チームへの海外拠点人材の参加

<各個撃破>の組織体制では、本社機能は海外拠点の部門トップ(もしく副トップ)が担う絵を説明しました。

 

地域統括レベルでは実際にそれに近い形で運用している会社もあるので、非現実な話ではないと思うのですが、いきなりその体制に移るのは無理でしょう。

 

そのため、現在日本にある事業や管理機能の海外周りを担当するチームの会議に、海外拠点の部門トップにより頻繁に参加してもらうことを最初のステップにするのが良いかと思います。

すべての海外拠点でなく、主要拠点の部門トップだけでも良いと思います。

 

直近の新型コロナウイルス禍においては、この施策は日本本社⇔海外拠点間の出張ができないことによる、情報共有の減少を回避することを目的とします。

 

リモートワークでバーチャル会議に慣れた人が増えた今、このような国際間のバーチャル会議へのハードルも低くなったのではないでしょうか。

 

 

海外拠点間での新商品コンテスト

ここが一番重要かもしれませんが、どれだけ会社の体制を整えても、世界中の「これまでの」需要が減っている業界も多いと思います。

各国の「新しい」需要を早く探し出し、新たな商品開発につなげることが不可欠です。

 

しかし、本社から海外市場の状況を掴むのはほぼ不可能。

また、海外拠点が「新しい」需要の情報を発信してくれたとしても、それが重要な情報か判断はしづらい。

 

そこで、各海外拠点に現地での新商品のアイデアを考えてもらい、コンテスト形式でグローバルグループ全体で共有します。

 

そのコンテストで出されるアイデアが新商品開発に直結しなくても良いと思います。

狙いは、次の通り;

  • 「新商品のアイデア」という形で、現地の「新しい」需要をより精度の高い情報として獲得する
  • 他の拠点のアイデアから、自拠点の市場で使えるアイデアを獲得する
  • 拠点間の情報交換のきっかけとする
  • 各海外拠点の自律性を高める

特に1つ目の点は、今後もトップダウン型の組織体制で事業を進めていくにしても、現在の状況では重要なポイントになると考えています。

 

 

海外拠点の現地社員によるビジョン、ストーリー作り

海外拠点の情報が入りづらく、また各国の状況変化も読めない中、本社で全体戦略や方針を立てるのは恐らく難しいのではないかと思います。

 

むしろ各国の状況を踏まえて、現地の社員が考える各拠点のビジョン、戦略ストーリーを作ってもらった方が、各国市場が置かれている状況や当面の制約条件、将来予測も見えてくるのではないかと思います。

 

もちろん、ここも将来的には<各個撃破>のグローバル化のフレームワークの中で、質も上げてビジョン、ストーリーを作ってもらう必要があります。

 

しかしまずは、「働かされている」という感覚から「自分たちで主体的に拠点の将来を考え、動く」というマインドセットに切り替え、自分たちの会社として自律的に急激な変化に対応してもらうことを目指します。

 

 

まと

<包囲戦>のグローバル化を進めている企業以外は、これまでのやり方をリセットするタイミングなのかもしれません。

 

もちろん、新型コロナウイルス禍が収まるまでの1~2年間、これまでのやり方で耐え忍ぶというのも戦略の一つではあると思います。

 

しかしながら、GAFAのような企業が先行する中、耐え忍ぶよりは一歩でも前に進むべきなのではと僭越ながら考えています。

 

 

 

 

※産業別GDP、産業別就業者数、輸出額のデータは下記を参照し、表は筆者が作成。

経済活動別国内総生産(実質:連鎖方式)

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/h30/h30_kaku_top.html

産業別就業者数、雇用者数

https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/chart/html/g0004.html

GDPに占める輸出額の割合

https://data.worldbank.org/indicator/NE.EXP.GNFS.ZS

サービス輸出

https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2016/2016honbun/i2210000.html

 

 

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