同一リーダーシップモデルから多様なリーダーシップモデルへ
前回のブログから、ダイバーシティ経営の必勝メソッドを紹介しています;
1. 強い共通性を作ることが多様性の近道
2. 同一リーダーシップモデルから多様なリーダーシップモデルへ
3. ダイバーシティ部長に一番保守的なおじさん社員を任命
4. レディメイドからカスタムフィットの働き方·ウェルネス
今日は2つ目の「同一リーダーシップモデルから多様なリーダーシップモデルへ」を紹介したいと思います。
暗黙的な同一リーダーシップモデル
私のメインのコンサルティング先は、日系企業の海外拠点や本社のグローバル人事を担当する部署です。
海外拠点であれば現地人材の幹部や、海外拠点から出向して本社の主要ポジションに就く外国籍の社員とのコミュニケーションも多くあります。
その彼ら・彼女らに感じる共通点は次のような点です;
- 時間を掛けて会議までの根回しを行う
- 会議では自身の主張は強く出さない
- 全体のコンセンサスが出来上がってくるのをじっと待つ
語弊があるかもしれませんが、すごく「日本人ぽい」人たちが海外拠点の幹部になったり、本社に出向してきます。
私が留学したカナダ、アメリカ合衆国、中国のクラスメイトや、欧米企業の日本以外の拠点の元同僚とは、個人差は当然ありますが、明らかに違います。
本人たちは、日系企業でキャリアアップしていく上で、日系企業の文化に対する深い洞察と対応力があるのだと思います。
一方で日系企業側に視点を移すと、同じようなタイプの人たちしか主要ポジションに引き上げられていないとも言えます。
外国籍で日本以外の土地で育ち、教育を受けているわけですから、海外拠点の社員は「日本人ぽくない」方が本来はマジョリティにもかかわらずです。
おそらく前述した共通点は明示的な登用基準とはなっていないと思います。
しかし、暗黙的には登用の有無を決める重要なポイントになっているのではないでしょうか?
この暗黙的な登用基準が、海外拠点の社員、外国籍社員の主要ポジションへの登用率が上がらない大きな原因になっているのではないかと思います。
ここまで外国籍の社員を例にとって説明してきましたが、日本人女性の登用についても同じことが言えるのだろうと思います。
主要ポジションへの登用を決める際、決める側の頭に思い浮かべるのは、今まで登用して成功してきた人たち。
その人たちに比べて、今度の候補者がどうなのかという視点で登用可否を考える部分は大きいと思います。
しかし、今まで登用して成功してきた人たちが、多くの会社ではまだ男性ばかり。
成功例の男性のように考え、行動するような女性の候補者でないと、登用には躊躇するようなケースは多いのだろうと思います。
また、前例とは異なる良い個性や資質、考えを女性の候補者が持っていても、見落とされてしまうことも多いのだろうと思います。*
多様なリーダーシップモデルの導入
こういった現状を踏まえた上で必要なのが多様なリーダーシップモデルです。
従来のリーダーシップモデルの基本的な考え方は、高業績者や現在・過去のリーダーたちに共通するコンピテンシーを抽出し、それを育成の指標にしたり、登用判断の基準にしていこうというもの。
先に書いた「暗黙的な登用基準」が明文化され、共有化される点は良いです。
しかし、結局このモデル(過去に成功した日本人男性メンバーのモデル)に当てはまらない人たちははじかれてしまうわけです。
だから、複数のリーダーシップモデルを用意することが重要です。
組織のメンバーは元々の自身の資質や視点・考え方に近いモデルを目指すようにすれば、より多様な人材が活躍できる組織になっていくはずです。
ここで避けなければならないのは、「外国人版」リーダーシップモデルや「女性版」リーダーシップモデルを考えてしまうこと。
そのようなアプローチでリーダーシップモデルを考えることは、ダイバーシティ経営に反対する人々に対しては説得力がなく、また質の悪いステレオタイプを作り出すリスクすらあります。
リーダーシップモデルを構築する上でブレてはいけないのは、その組織を持続・成長させるためのリーダーを作るという点。
そして、VUCAという今の時代に鑑みた時、頻繁に変わる事業環境に対して最もふさわしい「組織を持続・成長させるためのリーダー」は様々です。
例えば;
VUCAの時代に強い組織とは、それぞれのリーダー像に当てはまる人(もしくはその予備軍)がもれなくいること。
ダイバーシティ経営という視点から離れても、多様なリーダーシップモデルはこれからの時代に不可欠なものであり、このモデルを導入する説得力になります。
その上で、「日本人男性」をモデルとした同一リーダーシップモデルには合わなかった外国籍や女性もしくは日本人男性すら、別のリーダーシップモデルであればリーダー候補となる人は多く出てくるのではないかと思います。
まとめ
女性や外国人の管理職比率の目標を作り、そこを目指していくことは重要です。
しかしながら、単に「量」だけを追求してしまうことは、強い反対や不満、登用された本人たちの悩みを生み出し、継続性を脅かすことになってしまいます。
メンバーの視点からのダイバーシティ経営ではなく、事業の視点から多様性の必要性を論理的に組み立てることが、持続的なダイバーシティ経営を実現するカギになるのだと思います。
*⃰ 話が複雑になるので注釈として記載しますが、「女性だから男性と異なる視点や資質がある」とするのは必ずしも正しいとは考えていません。
なぜなら、視点や資質が違いがあるということは、社会や家庭が女性、男性、LGBTQに対して(場合によっては差別的な)異なる扱いをするが故に異なる体験をしてきたということが大きな要因になりえるからです。
多様性という観点からは、性別、性自認、性的志向で体験や扱いが大きく異なるとうことがない、故に視点や資質にもあまり影響しないのが理想の社会や家庭の在り方という考え方もあるかもしれません。
しかし、現時点では社会や家庭における扱いや体験は多かれ少なかれ異なるわけで、当面は組織としても「性別等の違いによって、視点や資質は異なることが多い」という前提で人材マネジメントを考えるのが現実的だとは思います。