ダイバーシティ経営の必勝メソッド(第3回)

ダイバーシティ部長に一番保守的なおじさん社員を任命

 

ダイバーシティ経営の必勝メソッドの3つめの紹介です;

  1. 強い共通性を作ることが多様性の近道
  2. 同一リーダーシップモデルから多様なリーダーシップモデルへ
  3. ダイバーシティ部長に一番保守的なおじさん社員を任命

  4. レディメイドからカスタムフィットの働き方·ウェルネス

 

 

ダイバーシティ部長というポジション

統計的なデータはありませんが、ダイバーシティ部長(もしくはダイバーシティ役員)を新設した際に、初めて部長や役員になる女性を登用する会社が多いように感じます。

しかも、組織体制では社長直下(間に役員を置かない)のポジションとしていることも少なくない。

 

象徴的に「会社がダイバーシティを推進するぞ」という決意を示す意味では良いのかもしれません。

しかし、「(社長直下の)新設の部長ポジション」に「新人の部長」をという点に焦点を当てた場合、必ずしも成功率の高い方法ではないと思うのです。

 

(社長直下の)新設の部長ポジションの特徴を羅列してみると;

  • 前例がないため、部の機能が明確でない
  • 前例がないため、目標やKPIの設定が難しい
  • 組織体制全体でどこに置けば最適なのかわからない
  • 新設のため、必要となる部員の数やスキルがわからない(多くの場合、人員不足からスタート)
  • 今まで一緒に働いたことがない社員が部員として集められる(部員同士もお互いのスキルや性格をあまり知らない)
  • (最初の意図・決意とは離れ)上司としての社長が忙しく、きめ細やかなサポートが得られない

 

加えて、ダイバーシティ部長という仕事の内容から、あらゆる部署と密な連携を取ることが求められます。

 

こう並べると、実績のあるベテラン部長が登用されても、成功するのが難しいポジションであることがわかるはずです。

社内人脈・基盤も十分でない新人部長がこなすのはしんどすぎるポジションなのです。

 

にもかかわらず、新人の女性のダイバーシティ部長が失敗した際には、「だから女性の管理職は駄目なんだ」とか「ダイバーシティ経営なんて意味がない」など、反対派の声を大きくしてしまうリスクがはらんでいます。

 

 

マイノリティがダイバーシティを推進すること

次に、組織の中でのマイノリティ(女性)がダイバーシティを推進することが、施策・戦略として効果的かどうかを考えたいと思います。

結論から書くと、良い点もあれば悪い点もあります

 

良い点としては、

  • 本人もマイノリティとして、マイノリティのニーズやダイバーシティ経営に向けての課題を見つけやすい
  • マイノリティの社員が相談しやすい

 

一方、悪い点としては、

  • 一番変わってもらう必要があるマジョリティ(日本人男性)の心情を十分汲み取れない
  • マジョリティからは、これまでの快適な環境をマイノリティが崩していく構図に見えやすい

 

例えば、既に実績のあるベテラン女性部長だったり、海外拠点経営陣に入っている現地社員(日本人から見たら外国人)であれば、悪い点を最小化し、良い点を最大化できる可能性はけっこう高いかもしれません。

 

しかし、ベテラン女性部長がいなかったり、海外拠点の現地化が進んでいないからこその、ダイバーシティ部長の新設であるケースの方が多いのではないかと思います。

 

そうした中で、組織のマイノリティが新人部長としてダイバーシティ部長を担った場合、良い点は消えないものの、悪い点が障壁となって、施策の導入ができなかったり、導入しても機能しない確率は上がってしまいます。

 

 

ダイバーシティ部長に一番保守的なおじさん社員

そこで今回の提案が、一番保守的なおじさん、つまりマジョリティのど真ん中にいるような日本人男性をダイバーシティ部長にすることです。

 

このおじさんは「バリバリの実績のある部長」で、少なくとも日本人男性からはしっかりと信頼されている人でなくてはいけません。

最初に挙げたように、ダイバーシティ部長は非常に難しいポジションだからです。

 

また、これによって先に挙げた、「マイノリティがダイバーシティを推進する」悪い点が消えます。

 

同時に良い点も消えてしまいますが、ここは次のような工夫を行います;

  • ダイバーシティ部長にアサインされた人の元の部長ポジションに新人のマイノリティを登用(できればそれ以外の部長ポジションにもマイノリティを登用)
  • このマイノリティの新人部長たちを成功させることを、ダイバーシティ部長の最大のミッションとする

 

 

 

 

このようなミッションがあれば、否が応でもマイノリティの新人部長たちの相談にのり、その人たちのニーズをくみ取って施策を導入したり、社内的なコミュニケーションをサポートする必要があります。

また、このような今までしてこなかった会話を通じて、ダイバーシティに関する課題も見えてくると思うのです。

 

もちろん、初めはそれ以外のマイノリティ社員の声を聞き逃してしまうことも少なくないかもしれません。

 

しかし、ローマへの道は一日にしてならず。

  • 対立構造を作らずにマジョリティの中心にいた人が率先してダイバーシティを推進すること
  • マイノリティの部長を成功させマイノリティに対する見方を変えること

この2つが達成できれば、新設のダイバーシティ部長の最初の成果としては十分大きいのではないでしょうか?

 

 

まとめ

マイノリティの主要ポジションでの成功は、ダイバーシティ経営推進の大きなマイルストーンのひとつです。

 

しかし、マイノリティを重要なポジションにアサインすることがゴールになってしまい、成功させるまでの道筋が十分描かれていないように感じます。

新設のダイバーシティ部長への、新人の女性部長の登用はその表れのひとつに感じます。

 

また、ダイバーシティ部長を社長直下とするのは、ダイバーシティ経営への本気度の表れだとする経営者も少なくないかと思います。

 

しかし、「バリバリの実績のある部長」のダイバーシティ部長へのアサインこそが、はるかに会社の本気度を示すことになります。

「バリバリの実績がある部長」ということは、「営業部」や「製造部」というような事業の根幹となる部を担う人材なわけです。

そのような部の部長をはずすリスクを取り、ダイバーシティ部長に据えるほうが、はるかに覚悟がいることなのです。