VUCAを生き抜く組織の柔軟性 (1回目)

VUCA:変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)に対する、組織の柔軟性を考えるのが今回のテーマ。

 

一昔前は、国際分業体制の構築、グローバル戦略のトップダウンでの遂行等、「大きく一枚岩」になることが強みだったと思います。

 

しかし新型コロナ禍でのグローバルサプライチェーンの分断などを見るに、もはや「大きく一枚岩」は強みでなく、弱みになることもありうる時代。

 

また、VUCAはリスクの方に目が向けられがちですが、チャンスが増大する時でもあります。

チャンスを如何に早く見つけ、掴み、拡大させるかが今まで以上に重要になります。

 

だからこそ、柔軟性(Flexibility)、弾力性(Resilience) 適応力(Adaptability)、多様性(Diversity)が、新たな強みとして様々な場所で議論されています

 

この4つの言葉を区別するのが目的ではないので、少し乱暴ですが「柔軟性」という言葉でひっくるめて、組織の柔軟性について考えていきたいと思います。

 

全5回ぐらい、次の内容を想定しています;

  • 組織運営柔軟性

  • メンバーシップの柔軟性

  • ビジョンの柔軟性

  • 育成の柔軟性

  • 個人の柔軟性

 

今日は「組織運営の柔軟性」について。

 

 

組織運営の柔軟性

組織運営の柔軟性とは、環境変化や会社の戦略、業務状況に対して人材配置(社員の立場から言えば役割)をどれだけ柔軟に変更できるかということ。

 

まずは柔軟性の観点から、組織運営方法を3つのスポーツに模して考えていきたいと思います;

 

 

 

<野球型>

野球では、ピッチャーはピッチャーの仕事、キャッチャーはキャッチャーの仕事しかしないのが普通。

試合の中で打順が変わることもありません。

 

 

 

それと同様、1つ1つのポジションの役割が定義されている組織運営です。

日本では役割基軸(もしくは職務基軸)と呼ばれる人事制度による組織運営ですが、日本以外では多くの組織はこの運営方法のため、そのような制度の名称すら一般的にはありません。

 

完成されたビジネスモデルで環境変化も小さい状況で、生産性や収益性を上げるには向いている運営方法です。

 

一方、この組織運営では、ある程度想定されるイレギュラーまでは対応できますが、大きな環境変化が起きた時にはすぐには対応できません

会社がポジション変更や役割変更をしたくとも、自分のキャリアプランや報酬に納得しなければ社員も合意してくれないからです。

 

また、このタイプの組織では、イノベーション、新規事業開発も専門の部門とポジションによってなされることが多いです。

このため、各事業部門で現業を回す中での発想や現場からの情報が、反映される機会も少なくなります

 

柔軟性の観点では、最も乏しい組織運営の方法です

 

ただし、日本以外の国では終身雇用の習慣はなく、大部分の人がキャリアップやより良い条件を求めて転職を数回は重ねるのが普通です。

 

このため、この運営方法の柔軟性の乏しさは、諸外国では外部の労働市場との人の入れ替わりによって補われます。

人を入れ替えることにより、新しいアイデアを取り入れたり、人が辞めるタイミングで各ポジションの意味を見直し、統廃合したりして組織体制を最適化していけるわけです。

 

最近は、役割基軸の人事制度という言葉が、ジョブ型雇用という言葉に置き換えられ、あたかも柔軟性がある仕組みという印象を持たれている方も多いように思います。

しかし、「ジョブ型雇用」というコンテキストの中で、柔軟性があるのは人材の流動性がある市場の方であって、役割基軸の人事制度ではありません。

 

 

<サッカー型>

サッカーでは、一応ディフェンダー、ミッドフィルダー、フォワードとポジションは決まっていますが、役割は流動的。

必要ならばディフェンダーでもシュートを打つし、フォワードでも守備に走り回ります。

 

 

 

チーム内のメンバー交代もそれほど多くないですし、チーム全体としての目的は決まっています。

しかし、その中で状況に応じて即座に役割分担を最適化したり、時に目的を越えたイノベーションを起こすことを目指す組織運営です。

 

北米の企業では野球型の組織運営を出発点としながら、市場の流動性だけでは足りないさらなる柔軟性を獲得するために、サッカー型組織への試みがしばしば見られます。

 

例えば、3Mの15%ルールやGoogleの20%ルール。

15%や20%の時間は、主体的にに元々決められた役割以外の貢献の仕方を求められます。

 

また、部門横断型でのプロジェクトチーム、そこに社員の主体性・自主性も求めたアジャイルチームなども、野球型組織運営に柔軟性を加える試みです。

 

自部門では決められた役割をこなしつつ、部分的に(もしくは一定期間)プロジェクトチームに入ります。

そうすることで、様々な現場での生の情報と発想を加えながら、イノベーションや業務改革、緊急事態への対応を行っていきます。

 

 

<バスケットボール型>

部門横断型でのプロジェクトチームやアジャイルチームを会社全体でやってしまおうというのが、バスケットボール型の組織運営。

 

ベンチメンバーとプレーするメンバーとの入れ替えは基本的に自由。

その時の状況に合わせて守るべき時はディフェンスの強いメンバー、攻める時はオフェンスが強いメンバーをコートに送り出します。

 

 

 

特に新しい組織運営方法というわけではなく、コンサルティング会社や、ITエンジニアの企業ではずっと以前から一般的な形。

 

社内の人材プールからスキルと空き状況を見て、プロジェクトごとに必要なプロジェクトメンバーを選んでいきます。

また、場合によってはプロジェクトのフェーズに合わせて、メンバーの入れ替えも行います。

 

そこに「社員が主体となってプロジェクトを立ち上げる」という要素を加えたのがホラクラシーという運営方法で、ザッポスなどで採用していることで有名です。

 

そして、このバスケットボール型のもう一つの形が、日本では馴染みが深い職能資格制度とローテーションによる組織運営です。

 

人材プールの中でスキル・能力によって等級格付けがされており、その格付けを基準として適材適所に、数年ごとに配置転換されていく仕組みです。

様々な部署を経験することで幅広い視点から発想も生まれます。

 

理念的には、バスケットボール型が最も柔軟性に優れた組織になります。

 

 

 

職能資格制度は本当に柔軟性があるのか?

とはいえ、実感として職能資格制度に柔軟性があるとは思えない人も多いと思いますし、私もそう思っています。

 

その理由は、理念とは離れ、多くの企業では職能資格制度を運用する中で、硬直化が様々な部分で起きているからです

 

主なものを挙げると、

  • (スキル・能力の)基準の硬直化
  • 社員格付けの硬直化
  • 報酬の硬直化
  • 役割の硬直化

 

本来VUCAの時代ということを考えれば、事業環境や戦略によって求めるスキルや知識は数年ごとに見直すべきです。

 

社員格付けにおいても、上位方向(昇格)での審査しか行われません。

基準を見直さなかったとしても、定期的に再度格付けを見直していく必要もあります。

 

法律的に難しい部分もありますが、本来格付けが下がればそれに見合った報酬に是正されるべきです。

それによって、本来もっと報酬を上げるべき社員へ原資を回せるようになります。

 

加えて、本末転倒ではありますが、報酬を是正できないがゆえに、ふさわしくない人を重要なポジションに付けたままになっているケースもしばしばみられます。

 

最後に、役割の硬直化について。

職能資格制度について最大の勘違いなのが、役割定義をしなくて良い制度だと思われている点。

 

どんな制度による組織運用だろうが、その時の事業環境や戦略に合わせた役割分担は必要です。

 

その証拠に、同じバスケットボール型でのコンサル会社等のプロジェクトでは、プロジェクト全体のスコープと各メンバーの役割が定義されます。

もちろんサッカー型と同じように、必要なら守備的な選手にもシュートを打ってもらうわけですが。

 

職能資格制度におけるこの勘違いによって、前任者の担当していた業務が見直されることなく引き継がれることで、状況や戦略にすでに合わない必要性の低い仕事が永遠と残ることになります。

 

これらのことが改善できれば、硬直化部分はだいぶほぐれるかと思います。

 

転職が一般化してきたとはいえ、他国に比べれば労働市場での人材の流動性が低く、人材の入れ替えによる組織体制の調整が難しい日本。

硬直化を解消できれば、日本国内においては、職能資格制度による組織運営によって柔軟性を確保できる企業は多いのではないかと思います。

 

 

毒を以て毒を制すための役割基軸の人事制度

とはいえ、硬直化を完全に解消するのは難しいという組織も多いとは思います。

 

そのような組織に対して、柔軟性が乏しいとした役割基軸の人事制度が、特効薬になる可能性もあります。

 

まず、ここ20年間で部分的にでも役割基軸の人事制度を導入してきた会社においては、「報酬の硬直化」の解消が行われてきました。

職能給と役割給を分けることによって、その時アサインされた仕事によって報酬が調整される仕組みなどはその分かりやすい例です。

 

また、併せて通常は等級基準が変わることで、「基準の硬直化」や「社員格付けの硬直化」も、少なくとも導入時には解消されます。

 

最後に、すでに述べたように勘違いではありますが、役割基軸の人事制度だけが役割定義をすると思われているため、役割定義の習慣が生まれやすくなります。

 

これにより「役割の硬直化」の解消が進む可能性があります。

 

ただ実務的な観点から、全ポジションにジョブ・ディスクリプション(職務記述書)を用意するというのはあまりお勧めしません。

作る時の負担が大きい割に、その後見直される機会が少ないというのがその理由です。

結果的に前任者の職務記述書が後任者にそのまま渡されるというまさに職能資格制度と同様の「役割の硬直化」を起こしかねません。

 

海外で職務記述書が全ポジションに整備されているように見えるのは、人の出入りが多いので、採用するために自然に揃っていったという側面が大きいですし、採用のたびに目を通すので役割を見直す機会も多いわけです。

 

ですので特に新しい手法ではないですが、お勧めするのは次のような定期的に各部署のマネジャーに役割分担を見直してもらう仕組みです;

 

 

 

1. 等級定義書

「等級定義書」は人事が主導で各部署の協力を得ながら作成していきます。

 

 

 

会社全体もしくは、販売・製造・間接ぐらいの枠組みで横串を通して、各等級のポジションに期待される役割のレベルを定義します。

おそらく、既に役割基軸の人事制度を導入している会社では揃っているのではと思います。

 

もちろん、VUCAの時代においては、人事が定期的に内容を見直すことが重要です。

 

 

【2. 各部署の機能リスト & 【3. 各ポジションの業務割合リスト

この2つは、各部署のマネジャーが毎期に、担当部署でやるべきことと各社員への役割分担を真剣に考えるツールになります。

 

 

 

「各部署の機能リスト」でマネジャーは担当部署全体でやることを定義します。

 

その上で「業務割合リスト」で、各ポジションが「機能リスト」のそれぞれの項目にどれくらいの時間を割いてもらうかを決めていきます。

もちろん各ポジションには、責任範囲となる項目に対して「等級定義書」で定義されたクオリティが求められます。

 

職務記述書はフォーマットにもよりますが、1ポジションごとに、この3つの組み合わせを文章で記述するようなものです。

まじめにやれば、特に等級定義書に当たる内容を、ポジションごとにカスタマイズして記述していくのは相当時間と労力がかかります。

 

一方、ここで記載した手法は記述する負担がはるかに小さくなります。

その代わりマネジャーには毎年/毎期に事業環境・戦略の変化を踏まえて、自部署でやることと、各メンバーに担ってもらう役割をしっかりと考えてもらうことに力を入れてもらいます。

 

担当部署の目標を達成できるように、なおかつメンバー誰にとっても不満の少ないやりがいのある役割分担をすることが、マネジャーの腕の見せ所になります。

 

メンバーからすれば、所属部署の誰が何をやっているかの全体像が見えることは大きなメリットの一つ。

また、部署の全体像が分かることで、今年・来年は「3」と「4」の仕事が中心だけれども再来年には「1」の仕事をやりたい等、少なくとも部署内での自身のキャリアプランをマネジャーと話し合うツールになります。

 

ある意味、サッカー型の組織運営に近く、ゲームの状況に応じてフォーメーションを調整するようなイメージです。

 

特に労働市場の流動性が低く、人材の出入りが少ない日本国内の多くの組織においては、各部署がその機能及び役割分担を定期的に見直す機会を適切に保つことが重要になります。

 

 

まとめと次回予告

今回は「柔軟性」という観点から組織体制、組織運営の仕方を3つのスポーツに模して考えてきました。

 

その中で、

  • 役割基軸の人事制度はけして柔軟性のある運営方法でないこと
  • 一方で、職能資格制度は最も柔軟な制度ではあるが、様々な部分で硬直化が起きていること
  • 職能資格基制度の「硬直化」を解消する上では、役割基軸の人事制度の導入も有効であること

を述べてきました。

 

また、職能資格制度、役割基軸の人事制度の2択ではなく、バスケットボール型、サッカー型、野球型というようにイメージで捉えていけば、もっと様々な選択肢があることがわかると思います

 

その上で、どのような組織体制、組織運営方法が良いのかを選択する上では、外部にどれだけのオプションがあるかというのも重要な視点になります。

 

単に、労働市場の流動性というだけではなく、アウトソーシングや協力しやすいパートナー企業、最近は個人のフリーランス等のオプションがどれだけあるかという視点です。

今回各図に入れていましたが、説明していない「外部」の部分。

 

次回はこの観点から、外部のケーパビリティの活用と付き合い方について「メンバーシップの柔軟性」ということで考えたいと思います。

 

 

 

<参考文献>

RIGBY Darrell K., SUTHERLAND Jeff, and TAKEUCHI Hirotaka, Embracing Agile. Harvard Business Review May 2016 Issue

BERNSTEIN Ethan, BUNCH John, CANNER Niko, and LEE Michael, Beyond the Holacracy Hype. Harvard Business Review July-August 2016 Issue

 

 

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